月組新人公演プログラムより
充実の暁トート&風間ルキーニ、月組「エリザベート」新人公演
月組期待のホープ、暁千星がトートに挑戦した月組公演、ミュージカル「エリザベート―愛と死の輪舞―」(小池修一郎潤色、演出)新人公演(樫原亜依子担当)が、11日、宝塚大劇場で行われた。暁トートはじめ出演者の歌唱レベルが高いうえ、狂言回し的存在のルキーニを演じた風間柚乃の硬軟自在の演技力で作品全体が引き締まり、本公演かと思うほどレベルの高い新人公演となった。
一本立て作品の新人公演は時間的な制約で大幅にカットされて上演されるのが常で、「エリザベート」もルキーニ登場後のプロローグがばさりとカット、肖像画から飛び出したエリザベート(美園さくら)が歌う「パパみたいになりたい」からスタート。結婚式とハンガリー訪問もカット、二幕はエリザベートの旅と病院訪問の場面、14場の霊廟がシンプルな場面になってエピローグへと続いた。フィナーレもカットされ休憩なしの二時間弱。カットされた場面をルキーニが説明するので、本公演とはルキーニの台詞が本公演と少し違うのも特徴だ。
トートはオープニングの「愛と死の輪舞」がなく、エリザベートが木から落ちたあとの出会いの場面が登場シーンとなるが、暁トートは甘いマスクにブロンドの長髪がことのほかよく似合い、なんといっても立ち姿が圧倒的に美しい。これまでのトートでいえば彩輝直の雰囲気に近い。彩輝ほどの妖しさはないが、歌唱はなかなかでどれも自分のものにしていた。「最後のダンス」「私と踊るとき」「闇が広がる」はよかったが後半の聴かせどころ「愛と死の輪舞」の銀橋ソロをやや甘くまとめ、トートの苦悩がいまいち表現しきれていなかったのが惜しかった。とはいえ予想を大きく上回る暁トートだった。
一方、やってくれたのはルキーニの風間だった。本公演とは違って下手からの登場で度肝を抜いたが、最初の一言で狂気にみちたルキーニの心情を表現、抑揚のついたメリハリのある台詞で、客席を一気に「エリザベート」の世界に誘った。この力量は並大抵のものではない。「キッチュ」も作りこまず、自然に演じているように見せながら、きちんと計算づくというところが見事だった。本公演は、役替わりで皇太子ルドルフを演じているが、これがまた芝居心があり、美弥るりか扮するフランツにぶつかっていく迫力はなかなかのもの。珠城りょうトートとの「闇が広がる」もぴったりと寄り添って歌う独特の世界観を展開、薄幸の皇太子というにふさわしい出来だった。
次期娘役トップに決まっている美園さくらのエリザベートは、最初に歌う重大なポジション。「パパみたいになりたい」はやや緊張して声が出ていなかったが、16歳の雰囲気はよく出ていた。もともと歌唱に定評があり「私だけに」などは見事だった。良く伸びる高音が聞いていて気持ちいい。一幕終わりの鏡の間のエリザベートは表情に力があったが、どちらかというと現代的で庶民的なエリザベートだった。
フランツ・ヨーゼフは輝生かなで。演技巧者として定評があり、お見合いから結婚式にかけての若々しいプリンスから老年期までを品格をたたえて渋くまとめた。かつらが合ってなかったようにみえたが「夜のボート」は美園ともども好唱だった。
ルドルフは彩音星凪。暁と並ぶとやや大柄に見えたがなかなかの美丈夫で華やかな雰囲気が漂った。前回「カンパニー」新人公演では月城かなとが演じた水上役を演じていたが、月組のこれからを担うホープ候補だ。ルドルフ少年の菜々野ありも初々しかった。皇太后ゾフィーの麗千里は迫力満点の歌と演技で存在をアピール。非常に安定した演技で舞台を締めた。女役ではマダム・ヴォルフに起用された蘭世惠翔にもびっくりさせられた。本公演ではルドルフ少年役を演じ、少年というよりは少女のような美しい声を披露しているが、一転、パワフルな女役の歌唱で場を圧した。マデレーネは結愛かれんだった。期待の娘役、天紫珠李はヘレネに回ったが、はやくもオーラが漂い、フランツがどちらを選んでもおかしくないほどだった。
とにかくアンサンブルの脇に至るまで誰一人破綻がなく、月組若手一人一人の実力がうまくひとつにまとまったレベルの高い新人公演だった。
©宝塚歌劇支局プラス9月13日記 薮下哲司