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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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愛希れいか、有終の美飾る、サヨナラ公演「エリザベート」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

愛希れいか、有終の美飾る、サヨナラ公演「エリザベート」開幕

 

月組娘役トップ、愛希れいかのサヨナラ公演となったミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)が、24日、宝塚大劇場で開幕した。愛希のエリザベートはみずみずしくキュートな美しさと圧倒的な存在感、トート役の珠希りょうとのコンビネーションも抜群で、1996年の初演以来10演目となった宝塚の「エリザベート」だが、またまた新しい伝説が誕生したといえそうだ。

 

初演以来、何度見たかわからないくらいの「エリザベート」。初演初日朝の舞台稽古が終わった後、前方で観劇されていた作曲のシルベスター・リーバイさんに感想を求めに行くと「オーケストラが素晴らしかった」と意外な答えとともに、大きな手で握手されたのを昨日のように思い出す。音どりの難しい楽曲を、短い練習時間で見事にマスターしたオーケストラの実力を高く評価されたのだった。

 

以来22年。上演回数は1000回を超え、いまやファンなら幕開きからフィナーレまですべての曲を空で歌えるくらいの耳なじみのミュージカルとなり、今回もチケットは全期間完売、初日も当日券は早朝から長蛇の列、午前10時の発売と同時に立ち見も売り切れという相変わらずの人気公演となっている。その最大の魅力は珠城がカーテンコールの挨拶で述べた通り「楽曲の素晴らしさと音楽の持つ力」にほかならない。さらに今回の大きな目玉は、月組で7年間トップ娘役を務めた愛希れいかが、サヨナラ公演でエリザベートを演じるということにつきるだろう。

  公演自体は装置やフィナーレに細かい手直しはあるがほぼ従来通り。まずトート役の珠城は、黄泉の帝王(死神)というにはあまりにも若々しくエネルギッシュというイメージがあり、実際、登場シーンはその通りだったのだが、照明が青白く変化して表情が一気に黄泉の帝王になった時は思わずぞっとさせられる強烈な迫力があった。メイクと照明の力も大きい。「闇が広がる」のルドルフ(暁千星)に対する明るい照明と対照的な青白い照明の効果も絶大で、この世のものとは思えないクールなトートだった。歌唱は「最後のダンス」を筆頭にどれもエネルギッシュで、演技プランというか全体のイメージとすれば姿月あさとのトートに近いかもしれない。

 

 

一方、愛希のエリザベートは肖像画から飛び出す登場シーンからそのキュートな美しさがさえわたった。ハイネの詩を朗読するくだりから父親マックス(輝月ゆうま)との「パパみたいに」のデュエットのみずみずしいこと。綱渡りから転落してトートと出会う場面からフランツ(美弥るりか)とヘレネ(叶羽時)のお見合いの場面でのお転婆ぶりなどなどまさに見惚れるほど。前半の聞かせどころはやはり「私だけに」のソロだった。うまく歌えるという意味ではもっとうまい人はほかにもいるだろうが、エリザベートとして存在感たっぷりの歌唱。一幕ラストの純白のドレス姿はただただまばゆいばかり。一幕のあでやかさから一転、二幕はやや控えめな落ち着いた演技で苦悩を表現、「夜のボート」から「レマン湖畔」そして「エピローグ」へとつないでいった。全編を通してエリザベートの魂の自由にポイントを置いた愛希のぶれないアプローチが、エリザベートの一生を鮮やかに浮き上がらせ、有終の美を飾ったといえよう。

 

フランツ・ヨーゼフの美弥は、意外にも「エリザベート」初挑戦。妖しい色気が魅力の美弥にとっては、その魅力を封印する形の難役だが、もともと軍服の似合う人なので、皇帝としての品格、貫録といった部分は手中のもの。「グランドホテル」のオットー・クリンゲラインとともに新たな代表作になるだろう。低音から高音まで音域の広い楽曲にやや苦戦している風にもうかがえたのは意外だったが、これは今後の工夫次第だと思う。

 

 この公演で一番驚かされたのはルキーニに扮した月城。予想をはるかに上回る好演だった。「キッチュ」の場面で「本当はこちらが一番緊張しているんです」と言って笑いを取っていたが、最初から肩の力を抜いた演技で、各場面とも縦横無尽の活躍ぶり。台詞がクリアで狂言回しとしての役割も十分果たし、舞台のかなめとしての役割を十二分に果たしていた。「ラストパーティー」といい、これといい最近の充実ぶりが頼もしい。

 

 あと大きな役ではゾフィーの憧花ゆりの。この人もこれが退団公演になるが、とげとげしい台詞や歌のわりに、嫌みが感じられず、人柄がにじみ出た温かみのあるゾフィーだった。ルドルフの暁は、陰のある美少年といったイメージ通り。ダンスの切れはこの人ならではで、まさしく適役好演。少年時代を演じた蘭世惠翔の澄み切った歌声も注目。

 

 精神病院のもう一人のエリザベート、ヴィンディッシュは海乃美月、マダム・ヴォルフは白雪さち花、マデレーネは天紫珠李、リヒテンシュタインが晴音アキといったところが娘役の大きな役だが、リヒテンシュタインの晴音の確実な歌と演技がひときわ印象的。男役ではラウシャー大司教の千海華蘭がちょっとした演技の間で巧みに笑いを取っていたのが印象に残った。

 

 フィナーレは珠城を中心とする男役メンバーの「闇が広がる」の群舞から「最後のダンス」をアレンジした珠城、愛希のデュエットダンスへと展開していくくだりがハイライトで珠希が愛希を3度もリフトをするダイナミックなダンスはけだしみものだ。パレードのエトワールは次期トップ娘役に決まっている美園さくらが美声を披露するのもききもの。演出的には装置など細かいところで手直しがされていたりするがほとんど変わりはない。しかし、何度見ても新しい発見がある不思議な魅力のあるミュージカルだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス8月24日記 薮下哲司

 

 

 


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