大和悠河、オペラデビュー!二期会「魔弾の射手」開幕
元宙組トップスター、大和悠河が、オペラデビューするというので話題となった東京二期会公演「魔弾の射手」(ペーター・コンヴィチュニー演出)が18日から22日まで東京文化会館大ホールで上演された。
大和のオペラ好きは有名で、まとまった休みが取れると必ず海外のオペラハウスでオペラを観劇、夏はヴェローナの野外オペラ、冬はミラノのスカラ座というのが恒例になっているという。そんな大和がオペラデビューした「魔弾の射手」は、1821年にベルリンで初演された“真の意味で最初のドイツオペラ”と言われるウェーバー作曲のオペラファンタジー。
オペラの背景は17世紀のボヘミアだが、上演された時期は、フランス革命後25年後の混沌とした時代。ギロチンによって貴族階級が一掃され、市民による時代が始まったかに見えたものの神(貴族)の代わりに悪魔(金)が生き延び、世界を支配し始めたころ。そんな殺伐とした時代を昔話風にたとえてファンタジックにつづった風刺オペラで、大和が扮したのは悪魔ザビエル。これまでは男性が演じてきたが、数々のクラシックオペラをリニューアル演出して、今、世界的に高い評価を浴びているコンヴィチュニーが日本での演出にあたって、日本ならではの特色を出したいという意向を示し、元宝塚歌劇団の男役トップスターだったという大和に白羽の矢を立てたという。
オペラというからには歌うと思われがちだが、実はこの悪魔ザビエルは「エリザベート」でいえば死神のトートのように、常に主人公のオットカール侯爵につきまとう影の存在で、歌はない。歌の代わりに朗読のようなセリフがあるだけ。しかし、オープニングからラストまでほぼ全場面で男女を問わずさまざまな役で登場、大和の早変わりが楽しめるという寸法。肩すかしのような半面ホッとする面もあり複雑な感じだが、坊主頭に僧衣という見たことのない奇抜なスタイルや妖艶なドレス姿、はたまた燕尾服にシルクハットといったかっこいい男役などの七変化はなかなか魅力的だった。
射撃大会で優勝すれば、恋仲のアガーテと結婚できることになっている若者マックスは、どうしても優勝したいために友人がマックスの魂と引き換えに悪魔ザビエルから譲り受けた魔法の弾で勝負するのだが、その代償は計り知れないものだった…というストーリー。オペラ自体は、コンヴィチュニー氏が1999年にハンブルクで初演した新演出版を、アレホ・ペレス指揮による読売日本交響楽団の演奏、二期会の実力派メンバーが熱唱、レベルの高い舞台だった。舞台を客観的に見る隠者を客席に配し、オペラのパトロンとした解釈が面白く、この役を歌い上げた小鉄和広の朗々たるバスがひときわ印象的だった。シンプルだが大掛かりな装置も見ごたえがあった。
©宝塚歌劇支局プラス7月22日 薮下哲司 記