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紅ゆずるがGHOSTに、RAKUGO MUSICAL「ANOTHER WORLD」開幕

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紅ゆずるがGHOSTに、RAKUGO MUSICAL「ANOTHER WORLD」開幕

 

紅ゆずるを中心とした星組によるRAKUGO MUSICAL「ANOTHER WORLD」(谷正純作、演出)とタカラヅカ・ワンダーステージ「Killer Rouge(キラールージュ)」(斎藤吉正作、演出)が27日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「ANOTHER―」は、桂米朝師匠がライフワークとして復元に心を砕いた古典落語の大作「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」はじめ「朝友(あさとも)」「死ぬなら、今」など死後の世界を舞台とした落語の設定を借りて相思相愛の恋人たちが“この世”と“あの世”を行き来しながら繰り広げる笑いに満ちた純愛騒動劇。

 

昨年、落語を原型にした映画「幕末太陽伝」の舞台化が評判を呼び、今度はいよいよ落語そのものを舞台化したRAKUGO MUSICALの登場となった。演出の谷氏はこれまでにも「くらわんか」など落語をモチーフにした作品を何作か発表しているが大劇場作品としては初めて。紅の肩の力を抜いた独特の個性が、フルに発揮できる作品で、そんな期待に応えた紅のアドリブも交えたコメディー演技が絶好調。

 

お互い恋患いで“あの世”にやってきた両替商「誉田(こんだ)屋」の若旦那、康次郎(紅)と菓子屋「松月堂」のいとさん、お澄(綺咲愛里)。せめて“あの世”結ばれようと愛しい人を探してやっとのことで出会ったものの、閻魔大王(汝鳥伶)がお澄に横恋慕、康次郎は地獄に落とされることに…。江戸落語の「朝友」の主人公を、上方落語の「地獄八景―」の世界に放り込んだ奇想天外なストーリーだ。他愛ないがそのなかに生と死などいろんな揶揄を笑いに包み、理屈抜きに楽しめる作品に仕上がった。

 

初舞台生40人の口上のあと場内が真っ暗になり、チョンパーで始まるオープニングは春らしく華やかそのもの、ひとしきり総踊りがあったあと、場面変わると、死に装束の紅扮する康次郎が蓮に乗って登場、なんでも恋患いで昇天したらしい。下界では自分の葬式が行われている。冥途では後からやってきた面々と意気投合、お澄も冥途にいると聞いて、みんなと一緒に探すことになる。最初からずいぶんと人を食った話で、次から次へと奇想天外な事件が。メイド(冥途)カフェや冥途歌劇団は傑作で、冥途歌劇団は「ベルサイユのばら」ならぬ「ベルサイユの蓮」を上演中。作、演出が植田紳爾というのがブラックユーモアで、これは「地獄八景―」のオチにもあるもののなかなか大胆。初日はご本人も観劇されていたらしく、舞台からのアドリブに客席は大爆笑だった。とにかく落語の舞台化なので、細かいことに目くじらを立てずに笑い飛ばせば楽しくみられる。ストーリーが単純なので今はちょっと長く感じられるが、これはこれから演じ込んでテンポ感が出てくれば解消するだろう。

 

 

紅はこういううわべはちゃらんぽらんに見えるが実は誠実で純情でという役どころを演じると天下一品。台詞回しのメリハリもかなりはっきりとして、聞きやすくなり、歌唱も各段に充実、人のいい誰からも愛される康次郎という人物像を魅力的に作り上げた。今後、臨機応変にアドリブが加わると、いつまでたっても終わらない芝居になる楽しい危険性も秘めているが、芯はしっかりしているので安心して見ていられるだろう。

 

相手役のお澄に扮した綺咲も、やわらかい大阪弁がことのほかよく似合い、冥途の「美人座」で踊る人形振りの「崇徳院心中」など艶やかな日舞もある。彼女の明るい個性がうまく生かされたといっていいだろう。

 

礼真琴は、フグにあたって冥途にやってきた江戸の米問屋「寿屋」の若主人、徳三郎。康次郎とは打って変わった遊び人で、話す言葉もべらんめえ。恋患いで死んだ康次郎と意気投合、一緒にお澄を探す旅に出る。礼はそんな粋な若旦那をかっこよく演じた。

 

七海ひろきは、「誉田屋」の手伝(てったい)喜六役。康次郎の死の責任をとらされ、やけ酒で5日目のサバを食って昇天、冥途で康次郎と再会するという設定。旅は道連れとばかり、康次郎と同行することに。康次郎以上にお人好しだが、そんな喜六を七海が心底楽しそうに演じた。

 

専科から出演した華形ひかるは、以前「くらわんか」で演じて評判となったビンちゃんこと貧乏神に14年ぶりに再挑戦。これがなんと「冥途観光案内所」の案内人という役どころ。なんともおかしくてまたまた場をさらった。かつての当たり役に別の作品で再挑戦するというのはあまり聞いたことがないが、華形の生き生きとした舞台姿が心地よかった。閻魔大王の汝鳥はいうまでもない適役好演、赤鬼、青鬼に扮した瀬央ゆりあと麻央侑希は隈取のようなメークでせっかくの美形が台無しなのがちょっぴり不満だが威風堂々の張り切りぶり。

 

ほかに印象に残ったのは三途の川の船頭、杢兵衛を演じた天寿光希、メイドカフェの茶屋娘、初音の有沙瞳、そして美人座の座頭、阿漕に扮した夢妃杏璃といったところ。なかでも夢妃の貫録ぶりはなかなかだった。

 

ショーの「Killer Rouge」は台湾公演の試演を見据えた新作で、とにかく衣装が絢爛豪華。真っ赤な照明のもと豪華なドレス姿の綺咲愛里を中心に赤のマントを翻すオープニングの男役たちの華やかなこと。とにかくスピーディーで、次から次へとメドレーのように休みなくハイテンションで展開、あっというまに初舞台生のラインダンスになる。このラインダンスがまた凝っていて「SAKURA ROUGE104」のタイトルのもと桜の花びらをイメージした衣装でラインアップ、最後には人文字で「104」を作るという徹底したもの。紅が「紅桜104」と名付けた104期生40人のはつらつとしたラインダンスがみものだ。

 

紅を頂点として綺咲、礼、七海、そして華形とそれぞれの見せ場や聞かせどころがあり、この公演で退団する十碧れいやにも銀橋ソロがあるなどいたれりつくせり。タカラヅカレビューならではの人海戦術が効果的だった。場面的には綺咲が紅頭巾、礼がオオカミに扮した三井聡振付の「Cutie Rouge紅頭巾CHANGとオオカミ」が面白かった。

カーテンコールの恒例初日挨拶は紅が「公演に何度も通っていただければ閻魔大王が閻魔帳につけて必ず天国に行けます」と話して客席から笑いを誘っていた。

 

宝塚大劇場では6月4日月曜日まで、東京宝塚劇場では6月22日金曜日から7月22日日曜日まで上演される。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月28日記 薮下哲司

 


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