月城かなと、永久輝せあ、期待の2人が火花、雪組「星逢一夜」新人公演
今年一番の佳作と評判の雪組公演、ミュージカル・ノスタルジー「星逢一夜」(上田久美子作、演出)新人公演が8月4日、宝塚大劇場で上演された。今回はこの模様を報告しよう。
身分が違ってもそんなことは何でもなかった幼少期の無垢な友情が、大人になって支配者と被支配者に立場が明確になったことから生まれる悲劇、これまでの宝塚にはなかったドラマチックな展開に、連日、大劇場は涙の洪水、某新聞には「新たな名作の誕生」とまで称賛された本公演。新人公演は、雪組の次代の担い手との期待が高まる月城かなとが紀之介(早霧せいな)、永久輝せあが源太(望海風斗)に扮するとあって、早々に立ち見も売り切れ、キャンセル待ちの長蛇の列ができるほどの人気となった。
真っ暗な舞台に蛍の群れが天の川のように戯れる幻想的な雰囲気の中、奥から紀之介に扮した月城が登場、続いて泉役の彩みちる(本役・咲妃みゆ)源太役の永久輝がからんでドラマチックな群舞が展開、本公演通り、これからのストーリーを暗示するような印象的なプロローグから始まった。ところが残念なことに、月城が第一声から明らかに本調子ではないことがわかるハスキーな歌声。どうやら声をつぶしていたようだ。最後まで調子が戻らず、台詞ものどをかばうようにソフトな声で通し、少年時代などそれが吉と出た場面もあったし、役作りとしては非常に手堅かったが、ここぞというときに声が出ず、紀之介という役の熱っぽい雰囲気がよく伝わらなかった。月城にとっても不本意な出来だっただろう。月城の魅力は何といっても直情的で情熱的な男役演技だ。そんな紀之介を見たかったと思うのは誰しも同じ。最後の新人公演主演、東京公演では体調を整えて万全を期してほしい
主演の体調がすぐれないと、それをかばう相手役にも影響が出てしまう。いい例が源太役、の永久輝。本役の早霧と望海は、思い切りぶつかりあって、それがドラマチックな高揚感を生み出している。月城と永久輝もラストの対決シーンは激しくぶつかり合っているのだが、永久輝の月城に対する遠慮と思いやりが出てしまっているような感じで、なんだかすごくあっさりした対決になったようにも思う。もちろん、永久輝の源太は、永久輝ならではの素直な演技で、クライマックスシーンでは客席はすすり泣きの声がもれるほどだったので、こちらのうがちすぎなのかもしれないのだが。いずれにしてもスター性は十分の2人。試練を乗り越えて、さらに大きく成長してほしい。
泉役は彩みちる。2013年初舞台、研3の新星だ。素直な上に非常にしっかりした台詞と演技で、チャンスをものにした。特にラストの月城との逢瀬から別れに至る場面が泣かせた。
ほかでは、ちょび康(彩風咲奈)の陽向春輝、秋定(彩凪翔)の橘幸がいずれもワンポイントながら印象的。陽向の芝居心たっぷりの演技、橘のすっきりとした立ち居振る舞い。いずれも高得点だった。英真なおきが演じた将軍は真條まからが起用された。落ち着いた風情で貫録を示し熱演だったが、やや若さが勝ったか。とはいえ、この公演の鍵を握るといってもいい大役をきっちり演じ切ったのは称賛したい。
娘役では貴姫役(大湖せしる)の有沙瞳が、評判通りの実力派ぶりを示した。このところ舞台映えする見せ方も体得してきたようで、これからが大いに楽しみな存在だ。本公演でヒロインを演じた咲妃は、江戸城下の立ち売り役とフィナーレの三日月の少女役などで出演、華を添えた。
終演後、月城は「私たち新人公演メンバーにはハードルの高いお芝居で、台本を何度も読んで臨みました」とあいさつ「声が本調子ではなかったので東京公演でしっかりリベンジしたい」と話していた。
©宝塚歌劇支局プラス8月5日記 薮下哲司