柚希礼音主演、ミュージカル「マタ・ハリ」大阪から開幕
元星組トップ、柚希礼音が、第一次世界大戦でフランスとドイツのダブルスパイとして暗躍した歌姫マタ・ハリに扮したミュージカル「マタ・ハリ」(石丸さち子演出)が21日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから日本初演の幕を開けた。今回は公演の模様をお伝えしよう。
グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、ジャンヌ・モローとそうそうたる女優が演じてきたマタ・ハリ。カリスマ的存在の魅惑のダンサーで、並み居る男性を手玉に取って国際的に暗躍した女スパイという実像と、それを演じた強烈な個性の女優たちの強烈な個性のおかげで、マタ・ハリというと妖艶でファムファタール(悪女)的なイメージがつきまとうが、柚希礼音が演じたマタ・ハリは、激動の時代に自立を求めて懸命に生きた女性として描かれ、このミュージカルでマタ・ハリ自体のイメージががらりと変わるのではないか、それほど柚希のマタ・ハリは魅力的、これまでのマタ・ハリのイメージを完全に覆した。彼女にとっても退団後初めて巡り合った当たり役と言っていいだろう。
親から虐待を受け、娘を亡くすという過酷な過去を持つマタ・ハリが、ジャワのダンスを踊ることで生きる意味を見つけ出し、そのセクシーさから東洋の宝石ともてはやされヨーロッパ全土でカリスマ的人気を獲得していくのとほぼ同時に、第一次世界大戦が勃発、各地を自由に行き来して公演するマタ・ハリがフランスの諜報局からスパイとして利用されることになる。結局、フランスとドイツ双方から利用され、二重スパイの嫌疑をかけられてしまう。彼女がスパイの仕事を受ける原因となる戦闘機パイロットの青年アルマンとの激しい恋、そして裏切り、波乱万丈のストーリーがフランク・ワイルドホーンのパワフルな音楽とともに展開する。石丸氏の演出はストレートに押しまくるタイプで、見る者をぐいぐい引き付けるパワーがあった。
退団後、柚希は「PRINCE of BROADWAY」「バイオハザード」「ビリー・エリオット」と着実にキャリアを重ねてきたが、次のミュージカルが「マタ・ハリ」と聞いたときは、正直、柚希の個性とはあまりにも違いすぎ、期待と不安が半々だった。しかし、演出の石上と柚希の真摯な取り組みが功を奏し、マタ・ハリを柚希に寄せ付けた。オープニングのジャワダンス風のソロダンスが素晴らしくて、最初から舞台に吸い寄せられる。スターとしてのカリスマ性があり、マタ・ハリにフランスやドイツの高官が群がってくるという説得力は十分あり、男性を手玉に取るというあたりの妖艶さには欠けるが、女性としてのコケティッシュな雰囲気が身につき、なんとも魅力的。ダンスは持ち前のシャープな切れ味に、しなやかな動きにセクシーさが増した。一方、歌も低音から高音までよく伸び、どの曲も朗々と歌い上げるワイルドホーンの難曲ぞろいの主題歌を圧倒的な迫力で歌い込んだ。柚希のこの役に賭ける並はずれた意気込みを見た感じだ。
その他のキャストはダブルやトリプルキャストだが、私が見た日は、フランス諜報局のラドゥー大佐が佐藤隆紀、戦闘機パイロットのアルマンが加藤和樹だったが、いずれも迫真の歌と演技。演者の個性としては双方ともこちらがあっているような気がした。ほかにピエールが西川大貴、パンルヴェ首相が栗原英雄、付き人アンナが和音美桜、ヴォン・ビッシングが福井晶一といった配役。レベルの高い歌唱力の持ち主ばかりでいずれも聴きごたえがあった。なかでも元宙組の和音が情感たっぷりの歌声で際立っていた。
大阪公演は28日まで。東京公演は2月3日から18日まで東京国際フォーラムホールCで。
©宝塚歌劇支局プラス1月25日記 薮下哲司