©宝塚歌劇団
花組公演「ポーの一族」開幕
花組トップスター、明日海りおが永遠に年をとらないバンパネラの美少年を演じた話題作、ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)が1月1日、宝塚大劇場で開幕した。新年最初はこの公演の初日の模様からお伝えしよう。
「ポーの一族」は、萩尾望都氏が1972年から76年にかけて「別冊少女コミック」に連載した吸血鬼伝説をもとにした漫画シリーズ。永遠の時を生きることを運命づけられた吸血鬼(バンパネラ)となった少年エドガーの愛と苦悩を描いた作品で、その斬新な構成と耽美的な作画の魅力で多くのファンの心をつかんだ少女漫画史上に残る伝説的作品。演出の小池氏が40年来舞台化を温め、ようやく実現にこぎつけたことや、漫画のイメージにぴったりのフェアリー系の男役スター、明日海の主演とあって、漫画ファン、宝塚ファン双方から熱い期待がかかる新作だったが、小池氏の熱い思いがすみずみまで感じられる渾身の舞台が現出した。
舞台は1964年の西ドイツ、フランクフルト空港。ドン・マーシャル(和海しょう)マルグリット・ヘッセン(華雅りりか)バイク・ブラウン4世(水美舞斗)の3人のバンパネラ研究家が、発見されたグレン・スミスの日記から「ポーの一族」について語り始めるところから物語は始まる。この3人が語り部となってストーリーが進行する仕掛けで、時空を飛び越えて自由に行き来する原作を、時系列を整理して進んでいく。
時は1865年にさかのぼり、狩りの途中で森に迷い込み、誤って少女メリーベル(華優希)を撃ってしまったグレン・スミス(優波慧)が、連行された館で衝撃的な出来事に遭遇する。エドガーに扮した明日海が、タイトな黒のスラックス、白いシャツに赤いバラを手にもって登場すると、舞台全体が一気に妖しいムードに。その美しさは漫画の100%の再現率。明日海のブルーに光る瞳がなまめかしい。
舞台はさらに100年前にさかのぼり、幼いエドガー(鈴美椰なつ紀)と赤ん坊の妹メリーベルが乳母に置き去りにされ、途方にくれていたところを老ハンナ(高翔みず希)に助けられるエピソードが綴られ、エドガーがバンパネラ一族に加わらざるを得なかった理由が説明される。
メリーベルをバンパネラから救うために別れるくだりや、恩人のポーツネル男爵(瀬戸かずや)の新妻シーラ(仙名彩世)へのあこがれに似た思いなどを描きながら、時代は1879年の港町ブラックプールへ。ここで、エドガーは町一番の実力者の息子アラン(柚香光)と運命的な出会いを果たす。一幕はアラン登場がクライマックスとなり、二幕へと展開していく。
明日海は、ビジュアル的にこれ以上あるとは思えないほどの再現率でエドガーを体現。少年でありながら精神的には大人な雰囲気のあるエドガーの内面をも的確に表現した。トート、光源氏、ビルなどを演じてきた明日海が初めて出会ったぴったりのオリジナルのキャラクターで、ようやく宝塚での代表作に巡り合ったといって誰も異論はないだろう。
エドガーをめぐる人々の主要人物は登場順に、まずポーツネル男爵の瀬戸かずや。バンパネラであることに誇りを持ち、血統を残そうとするさまを、存在感たっぷりに演じ抜き、強烈な印象を残した。男爵の妻になるシーラを演じたのは仙名彩世。エドガーのあこがれの存在でありながら、決して清廉潔白ではない難役を、さすがの演技力で表現。ロマネスクな衣装の着こなしも見事だった。
シーラに言い寄り、バンパネラであることを見破ってしまう医師クリフォードを演じた鳳月杏も、これまでにない濃い役どころを巧みに演じ印象的。妹のメリーベルは「はいからさんが通る」のはいからさんを演じた華優希が抜擢されたが、さすが期待の娘役とあって存在感抜群。演技のうまさで見せた。
エドガーがともに永遠に生きるパートナーと決めるアランを演じた柚香光は、明日海とともに漫画の再現率100%のビジュアルで登場シーンからインパクト十分の適役好演。原作に比べて二人の関係の描写が淡白なのがやや肩すかしだったが、ラストの二人がクレーンに乗って時空を飛ぶシーンはそれを補ってあまりあった。
ビルとハロルドの二役を演じた天真みちる、バイク役の水美舞斗、アランを追いかけるマーゴット役の城妃美伶、クリフォードの婚約者ジェインを演じた桜咲彩花、ホテルの支配人アボットを二役で演じた和海しょう、エドガーに血を吸われる花売りの少女ディリーを演じた音くり寿と脇役もきっちりとした見せ場があり、それぞれがしっかりとこなしていて見ごたえがあった。
原作を理解している人にとってはどの場面も再現率が高くこたえられないだろうが、全く知らない人にとっては突っ込みどころ満載でやや置いてきぼりの感のある作品ではあるものの、その世界観に一度はまると抜け出せない魅力があるのも確か。描かれているのは永遠の命だが、それを表現できるのは今だけという切なさが充満していて、宝塚でしかできない、まさに宝塚にぴったりの作品だった。
そういう意味でフィナーレに明日海と仙名のデュエットダンスの前に少しでいいので明日海と柚香の妖しいデュエットダンスがなかったのはちょっと残念だった。それがあって初めて完結するのが宝塚だと思う。
初日には原作者の萩尾さんも客席で観劇、終演後に高翔組長が紹介すると笑顔で出演者に大きな拍手、明日海は「小池先生と萩尾先生の出会いに感謝、この奇跡を大事にして、原作ファンの方も、読んでおられない方も、どちらもご満足いただけるよう千秋楽まで精進してまいりますのでよろしくお願いいたします」と挨拶、客席からの拍手はいつまでも鳴りやまなかった。
©宝塚歌劇支局プラス1月2日記 薮下哲司
◎…暮れに発表した「宝塚グランプリ2017」はこれまでにない予想以上の反響を呼びました。受賞者の何人かからはお礼のコメントも頂きました。また特別賞の鳳翔大さんには京都で行われた能「紅天女」公演時に報告、大変喜んで頂きました。受賞結果に花組と星組がなく、それぞれのファンの方からは偏っているとのクレームがありましたが「邪馬台国の風」「はいからさんが通る」「ベルリン、わが愛」にももちろん投票がありましたが首位には届きませんでした。ちなみにこれまでのグランプリ作品は「前田慶次」「星逢一夜」「るろうに剣心」で雪組が独占。となると偏っているといわれても不思議ではありませんが、それだけ雪組が充実していたという証でもあります。レビュー部門では2015年に花組の「宝塚幻想曲」がグランプリを取っていますが、それにしても全部日本物ということに改めて驚きます。2018年はどんな結果になるかいまから楽しみです。