珠城りょう、愛希れいか主演、月組公演「鳳凰伝」全国ツアー開幕
月組トップコンビ、珠城りょう、愛希れいか主演によるグランド・ロマンス「鳳凰伝―カラフとトゥーランドット―」(木村信司脚本、演出)とショー・ファンタジー「CRYSTAL TAKARAZUKA―イメージの結晶―」(中村暁作、演出)全国ツアーが17日、梅田芸術劇場メインホールから開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。
「鳳凰伝―」は、名曲「誰も寝てはならない」で有名なプッチーニの遺作オペラ「トゥーランドット」をベースにしたミュージカル。原作自体は宝塚でも1934年、白井鐡造氏が作品化、1952年には春日野八千代主演で再演され話題を呼んでいる。これを木村氏が21世紀版として新たに書き下ろし、2002年に和央ようか、花總まりの宙組で上演、2003年には博多座で再演する人気を呼び、以来14年ぶりの再演となった。大劇場公演では花總の衣装のすそが銀橋の端から端まで一杯にひろがり、その豪華さが強烈に記憶に残っているが、今回は全国ツアーとあって銀橋がなくその場面のインパクトがなく、人数が少なく初演時に評判となった群衆の大合唱や戦闘シーンも迫力に欠け、装置が簡略化されるなどスケールダウンは否めないが、珠城、愛希コンビが大健闘、見ごたえのある舞台となった。
緞帳前に盗賊のタン(紫門ゆりや)とトン(千海華蘭)が登場、2人で緞帳を上げて舞台が始まる。シェークスピア劇などではたまにある幕開き。幕が開くとカラフ(珠城)と小姓ゼリム(蓮つかさ)が登場。戦乱で行方不明になった父王(箙かおる)を探すために北京に向かっているところらしいことが分かる。そこへアデルマ姫(麗泉里)一行が先ほどの盗賊たちに襲われているところに遭遇、カラフは素手で彼らを倒し、名も名乗らず去っていく。その戦いぶりにアデルマ姫は名も知らずカラフに一目ぼれしてしまう。ここの殺陣(渥美博担当)がなかなか見事で珠城の剣さばきの鮮やかさが際だった。トップとして風格が出てきたのも頼もしい。
場面は北京。皇帝(輝月ゆうま)の一人娘トゥーランドット(愛希)は、求婚してくる異国の王子たちに三つの謎を出し、解けなければ処刑していた。カラフがやってきたのはペルシャの王子(彩音星凪)が処刑される前夜。騒然とした街でカラフを慕う奴隷の娘タマル(海乃美月)の世話になっている父王と再会する。そうこうするうちにペルシャ王子の処刑に現れたトゥーランドットを見たカラフはその壮絶な美しさに魂を奪われ、自分も謎ときに挑戦しようと決める。カラフをめぐってトゥーランドット、アデルマ、タマルの四角関係がこうやって展開していく。ストーリーはオペラとほぼ同じなので、カラフやトゥーランドットをいかに宝塚の舞台に息づかせるかが問題になるが、珠城、愛希が役にうまくはまったのと、役にうまく近づくことができたことで、これ以上ない理想的な舞台になった。
珠城のカラフは、この上なく力強く、愛希のトゥーランドットは、存在するだけで美しいうえに優雅にしかし凛とした動きで舞う姿はもう神々しいぐらいだ。「グランドホテル」「All for One」と好調なコンビらしい自信と余裕が見ていて心地よかった。
初演が水夏希、博多座再演では大和悠河が演じた盗賊の頭バラクは月城かなと。登場シーンからして、客席全員の視線を集めるほどのかっこよさ。カラフと自分の境遇が似ていることから共感を持ち、友情を感じていくあたりを巧みに表現、後半では壮絶な死にざまを見せる。おいしい役を月城が好演した。
アデルマ姫の麗は勝ち気な感じをよく出し、タマルの海乃はけなげで古風な耐える女を的確に演じていた。輝月の皇帝もよかったが、父王役の箙の渋い演技も印象的だった。
「CRYSTAL―」は、龍真咲時代の月組公演「PUCK」とともに上演されたショーの再演。
“イメージの結晶”をテーマにした中村氏のバラエティー豊かなステージで、同じ月組でたった3年前の作品にも関わらず愛希のほかは出演者が大幅に変わっていて、ほかの組でみるような不思議な感覚。そんななか珠城と愛希のデュエットダンスが3回も登場するのは眼福だった。なかでも「ドール・オペラ」の人形振りのダンスが愛希ならではの素晴らしさ。「Mrシンデレラ」の場面は月城が演じ、シンデレラは海乃が務めた。あと紫門ゆりやと蓮つかさがここという場面で重用され、歌にダンスに大活躍だった。
©宝塚歌劇支局プラス11月18日記 薮下哲司