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轟悠主演、「神家(こうや)の七人」、石丸幹二、安蘭けい主演「スカーレット・ピンパーネル」開幕
“トップ・オブ・トップス”轟悠の「長崎しぐれ坂」に続く今年二度目の主演作、専科公演、ミュージカル「神家(こうや)の七人」(斎藤吉正作、演出)が、13日、宝塚バウホールで開幕、石丸幹二、安蘭けい主演によるミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」(ガブリエル・アリー潤色、演出)も同日、梅田芸術劇場メインホールで初日を開けた。今回はこの模様をあわせてお伝えしよう。
「神家―」は、第二次大戦直後のアメリカ東部の町ボルチモアを舞台に、欧州戦線から帰還したマフィアの息子イヴァンの跡目騒動を描いた、斎藤氏が轟の為に書き下ろしたミュージカルコメディ。マフィアを継がず神父になるという心優しい純朴な息子の身体に、マフィアのボスだった亡き父親の幽霊(華形ひかる)が乗り移って大暴れ、ひと騒動が巻き起こる。轟が、純朴な青年と父親が乗り移った凶暴な青年の両方を演じ分けるのがミソという一篇。亡き父親を慕うファミリーの面々に汝鳥伶、一樹千尋、悠真倫といった芸達者に加え月組から春海ゆう、蒼瀬侑季、周旺真広が参加。戦場でイヴァンの命の恩人となる女優ロビンに早乙女わかばという配役。轟を含めて出演者は9人というこぢんまりとした舞台だ。
オープニングは欧州戦線の戦場。慰問にきた女優ロビンにプレゼントされ胸ポケットにいれておいたライターに敵弾が命中、命拾いをするエピソードから。ロビンの態度からイヴァンが年下であることがうかがえる。20代の青年を演じる轟が何とも初々しいが、この場面がこの舞台の一番の鍵になっていたことが、あとからわかってくる。そういうちょっとしたひねりも効かせながら、全体としては芸達者なメンバーの小芝居を理屈抜きに楽しんでもらおうという大人のファンタジーだ。「神家の七人」という西部劇の名作「荒野の七人」をもじったタイトルからして人を食っているが、「第二章」や「双頭の鷲」といった完成された作品を見た後では、やや物足りず小粒なイメージは拭えない。
とはいえ轟は、虫も殺さぬ心優しい青年と声高に怒鳴りまくるマフィアのドンを一瞬にして演じ分け、その振り幅の広さはさすが年季が入っている。この程度の表層的な変身など轟にとっては目をつぶってもできる業だろう。汝鳥や一樹、悠真らとのコンビネーションもいわずもがなの素晴らしさだった。来年は「ドクトルジバゴ」「凱旋門」と意欲的な新作と代表作の再演が続くこともあってちょっとした肩慣らし的な感覚か。
イヴァンの父親役ウィリアムを演じた華形は、白のソフト帽にストライプのスーツがよく似合い、マフィアのボスを楽しんで演じている。この感覚、どこかで見たなあと思ったら「ガイズ&ドールズ」の世界だった。二幕では25年前という設定で若き日もみられるのはサービス満点。
汝鳥は、メンバーの長的存在で、こわもてだが、それに似合わず猫に目がないというクライドを落差をつけて好演、笑いを一手に引き受けた。月組メンバーでは蒼瀬が演じたオカマのマフィア、ミックが漫画チックで熱演だった。ただし、この時代のアメリカでいまのように市民権を得ていたかどうかは大いなる疑問。描き方も類型的で、一昔前なら笑いですませただろうが、セクシャルマイノリティの描き方に厳しいいまどき、手放しでは笑えない。
紅一点の早乙女わかばは、ロビン役の他にもD.J.役など何役も演じ大活躍。ラストに明かされる秘密もあって、印象的な役まわり。星組時代に「第二章」で轟とはすでに共演済みとあってラブシーンも堂々としていたのが印象的だった。
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一方「スカーレット・ピンパーネル」は、宝塚版でおなじみの同名ミュージカルのブロードウェー版脚本の日本初演の再演。パーシーに石丸幹二、マルグリットに安蘭けい、ショーブランに石井一孝というメンバーは初演と変わらないが、ピンパーネル軍団が一新、フレッシュな風が吹いたのと、フランク・ワイルドホーン氏が、二幕冒頭のロベスピエールの歌やパーシーが歌う「ここから先へ」を新たに書き下ろし、宝塚版で印象的な主題歌「ひとかけらの勇気」も「悲惨な世界の為に」という別のタイトルでパーシーとマルグリットがそれぞれの心情の歌として歌うなどの改変がみられ、初演より完成度がより高まっていた。
宝塚版との大きな違いは、ルイ・シャルル王太子救出ではなく、マルグリットの弟アルマンを救出することになっていること。アルマンとマリーが恋仲ではないということなどだ。オープニングはマルグリットがパリ最後の舞台で歌っている場面から始まるなど、これはこれで面白くみられるが、ワイルドホーン氏の曲の良さがこの作品でも際立っている。初日にはワイルドホーン、和央ようか夫妻も客席で観劇。終演後にはカーテンコールでワイルドホーン氏が舞台に立ち「この素晴らしい出会いを大切にして、また次の機会に生かせたら」と挨拶、石丸ら出演者を感激させていた。
東京公演は11月20日からTBS赤坂ACTシアターで。
©宝塚歌劇支局プラス11月15日記 薮下哲司記