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柚香光の“生き少尉”ぶりがみもの!花組公演「はいからさんが通る」開幕
花組の人気スター、柚香光が主演するミュージカル浪漫「はいからさんが通る」(小柳奈緒子脚本、演出)が7日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。
「はいからさん-」は1975年から2年間にわたって「週刊少女フレンド」に連載され、その後テレビアニメ、舞台、映画化などさまざまな分野で取り上げられた大和和紀原作の人気少女漫画。宝塚でも、1979年に、関西テレビの「宝塚テレビロマン」枠で、はいからさんの花鳥いつきをはじめ平みち、日向薫、剣幸、遥くららら当時の若手人気スター総出演によってドラマ化された。その時は、宝塚では舞台化はされず、長らく上演が待望されていたが、なんと38年ぶりにようやく実現したことになる。
大正7年の東京を舞台に、米騒動やシベリア出兵さらには関東大震災と当時の社会的問題も背景にとりいれながら、快活な女学生、花村紅緒とハンサムで笑い上戸の陸軍少尉、伊集院忍が繰り広げる波乱万丈のラブストーリー。「ルパン3世」や「幕末太陽伝」など漫画や映画の宝塚化に定評のある小柳氏の演出は今回も絶好調、日本人の父親とドイツ人の母親のあいだに生まれた伊集院役に柚香、紅緒役に100期生の華優希と、フレッシュな配役を得て、大和和紀氏が描いた大正ロマンの世界を見事に宝塚の舞台に移し替えることに成功した。
舞台は幕前で紅緒(華)が蘭丸(聖乃あすか)を相手に剣術の稽古をしているところから始まり、幕が開くと舞台の階段中央に軍服姿もりりしく伊集院こと柚香がさっそうと登場。そのかっこよさに思わず客席から歓声がもれるなか「はいからさんが通る」の歌詞も軽快に華やかにプロローグが展開。客席からは早くも手拍子が起こるなどファンの高揚感が正直に現れた久々に見る熱いプロローグだった。
舞台は、桜並木の土手で自転車で登校中の紅緒が伊集院とぶつかって転倒する2人の出会いの場面から、クライマックスの関東大震災の場面まで、原作の全巻をほぼ忠実に再現。
一幕が、紅緒のもとにシベリアに出兵した伊集院が戦死したという知らせが入るまで。二幕が伊集院そっくりのミハイロフ侯爵が来日するところから関東大震災まで。筋を追うあまりやや性急なところはあるものの、肝心なところはきちんと説明台詞をいれて分かりやすく展開、陸軍少尉の伊集院忍を丁寧に追いながらも、基本的には紅緒の視点で大正期、封建的な束縛から目覚めはじめた女性たちの意識の変化をとらえた原作を巧みに宝塚的に脚本化した小柳氏の手腕がさえた。
ヒロインの紅緒と、出会う前から許嫁と運命づけられている伊集院忍を演じた柚香は、まさに漫画から飛び出てきたようなかっこよさ。中国映画や韓国映画ではしばしば敵役で登場する日本陸軍のカーキ色の軍服がこれほどかっこよく見えたのも初めてではないかと思う。ビジュアルのはまり具合は100%でそれだけでも十分なのだが、混血の軍人であることでの苦悩を表には出さず持ち前の明るさで対処するあたりの内面的な演技もなかなかだった。シャープなダンスと殺陣の動きは申し分ないが、以前から比べるとずいぶんうまくはなったものの歌唱がやや弱いのが課題か。とはいえ柚香の代表作として長く語り継がれる役になることは確実だろう。
紅緒に起用された華は、2014年初舞台の100期生。「邪馬台国の風」新人公演で初ヒロインを演じ注目されたばかりでの抜てきで文字通り体当たり的な熱演。ほぼ出ずっぱりの大役だが、見ていて辛くなるような必死感がなく、舞台姿に余裕すらあってとにかくかわいい。柚香扮する伊集院に甘えながらも対等にぶつかっている感じがなんとも微笑ましかった。「ME AND MY GIRL」のジャッキーがジェラルドに迫るソファーの場面の逆バージョンのようなパロディー場面があるが、この場面の華の寝たふり演技がなんともキュートだった。いわゆる宝塚の娘役の王道ではない型破りな感じもあり、外部の舞台でも即通用するような娘役だ。今後の活躍に期待したい。
ほかに、本格的には二幕からの登場となるが、女嫌いの編集長、青江冬星に扮した鳳月杏が、長い脚にロン毛がよく似合い、抜群の漫画再現率で好演。最初は毛嫌いしていた紅緒の純情さにほだされていくあたりを巧みに演じ込み、客席からの好感度を一気に勝ち取った。
伊集院の戦場での部下で、「ベルばら」ならアランを思わせる鬼島軍曹は水美舞斗。荒々しく野性的だが義に熱い男を、豪快に演じ印象的だった。
紅緒の幼馴染で歌舞伎の女形の蘭丸に扮した聖乃あすかも、美形が引き立ち、うってつけの役を好演。車引きで紅緒の子分になる牛五郎役の天真みちるもこの人しか考えられない適役だった。
娘役の好演も忘れてはいけない。紅緒の親友、環役の城妃美伶が、若い華を巧みにリードして歌に芝居に実力を発揮。ヒロイン経験があるだけに存在感が抜群で、気持ちのいいサポートぶりだった。二幕プロローグでのセンターが見せ場だった。伊集院がなじみの柳橋の芸者、吉次は桜咲彩花。こういう大人っぽい女役がすっかり似合うようになった桜咲に感無量。
伊集院伯爵の英真なおき、伯爵夫人の芽吹幸奈、女中頭・如月の鞠花ゆめとベテラン陣も脇をしっかりと締め、そのほかのアンサンブルも含め周囲の充実が主演の二人を盛り立てたそんな公演でもあった。脇と言えば敵役の印念中佐を演じた矢吹世奈の凄みの効き方も半端ではなかった。
昨今、宝塚は漫画原作ブームだが、なかでもこの作品は王道作品の一つ。それはやはり男役と娘役の立ち位置がしっかりしていて、ストーリーの軸がぶれないことだろう。出演者さえそろえば今後の再演も十分可能だろう。
©宝塚歌劇支局プラス10月8日記 薮下哲司
甲南女子大学「宝塚歌劇講座特別編」開催のお知らせ
◎…甲南女子大学(神戸市東灘区)では、2007年に「宝塚歌劇講座」を他校に先駆けて開設して以来丸10年になるのと宝塚レビュー90周年をダブルで記念、11月19日(日)15時から大学内の教室で「宝塚歌劇レビュー90周年に寄せて」のタイトルで特別講座を開催します。出演は三木章雄(宝塚歌劇団演出家)出雲綾(元月組)薮下哲司(甲南女子大学非常勤講師)司会は永岡俊哉(羽衣国際大学准教授)が務めます。受講は無料ですが、事前に申し込みが必要です。以下の甲南女子大学ホームページ申し込みフォームからお申し込みください。
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