新人公演プログラムより
月組・蓮つかさ、初々しく力強く初主演、浪漫活劇「All for One」新人公演
月組期待の男役スター、蓮つかさの初主演となった浪漫活劇「All for One」~ダルタニアンと太陽王~(小池修一郎作、演出)新人公演(指田珠子担当)が1日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。
「All for One」は、アレクサンドル・デュマ原作の「三銃士」をもとに小池修一郎氏が、珠城りょうはじめ主要配役すべてを現在の月組メンバーの個性に合わせて当て書きしたオリジナルミュージカル。研7以下の新人公演メンバーにとっては試練の公演となったが、暁千星という逸材に隠れて、なかなかチャンスがめぐってこなかった蓮つかさに、新人公演最後の年の研7にしてようやく初主演の晴れ舞台が到来、緊張感みなぎるなか初々しく溌剌とした演技で素敵なダルタニアンを見せてくれた。
休憩を含めて3時間の一本立ての大作を新人公演で上演するときのいつものセオリー通り、休憩なしで1幕と2幕を通し、中身も2時間に短縮しての上演。このためプロローグの銃士隊の群舞がカットされ、ダルタニアンが国王の剣術指南役に抜擢され三銃士たちから激励されているくだりからスタート。さらに続く王宮の広間と廊下の場面が合体されるなど細かいカットがあり、二幕冒頭の仮面舞踏会、フィナーレがカットされた。しかし、作品の面白さには直接影響するようなところはなく、逆にテンポがよくてすっきりした印象。
主演のダルタニアンを演じた蓮は、新公の長の期、研7での初主演。「1789」新人公演で珠城が演じたロベスピエール役を好演したころから注目していたが、前回の「グランドホテル」新人公演のラファエラ(本役は朝美絢と暁千星)が実にいい味を出していて、一度は主演を見たいと思っていたので、今回の主演は大いに期待した。開演のアナウンスから、自身の伸びやかな高音をそのまま使って高らかにしゃべり、場内から歓声が上がった。そして舞台では、珠城のダルタニアンを踏襲しながらも蓮ならではの若さ弾けるダルタニアンで、立ち姿の美しさもさることながら歌唱の高音の伸びが耳に心地よかった。全体的にやや緊張気味で初々しい感じはよかったが、「壁ドン」の迫力はやや抑え気味で、さすがに珠城に一日の長があった。これは余裕と経験の差か。自信をもって堂々と舞台に臨めばさらにひとまわり大きなダルタニアンになるだろう。
実質この舞台の主役というべきルイ14世役(愛希れいか)は、結愛(ゆい)かれんが起用された。前回の「グランドホテル」新人公演ではフラムシェン(早乙女わかば/海乃美月)をかわいく演じて注目した娘役だが、今回はやや荷が大きすぎた感じ。本来なら紫乃小雪か海乃美月あたりが演じるのが妥当ではないかと思うのだが、紫乃は退団が決まっており、海乃がモンパンシェ公爵夫人に回ったことから結愛が起用されたようだが、男として育てられたというところの凛々しさの表現が弱く、普通の女の子感が濃厚。ただフランス人形のような可愛さは抜群で、一生懸命さには好感がもてたが、本役の愛希があまりに素晴らしいので、どうしても見劣りがしてしまった。歌唱の不安定さも減点材料だった。
三銃士メンバーはアラミス(美弥るりか)が輝生かなで、アトス(宇月颯)が朝霧真、ポルトス(暁)が礼華はるという配役。それぞれ好演しているが、本役の個性に合わせて、なぞっているようにも見え、その分、本公演のメンバーたちの動きやセリフが二重写しに目に浮かぶといった弱点も。なかではポルトスの礼華が、本役の暁とは違った個性を際立たせて面白かった。
そんななかで際立ったのはベルナルド(月城かなと)の風間柚乃。前回「グランドホテル」新人公演のオットー役で衝撃の大役デビューを果たし、今回は本公演で作品の鍵となる隠しキャラのジョルジュを好演している風間だが、ベルナルドはジョルジュとは全く個性の違う濃い悪役。これを芝居心のある演技で完璧にやりこなしてしまうのだから見事なものだった。まず登場の第一声から、その滑らかな台詞に驚かされた。大和悠河の再来を思わせる甘いマスクも大きな武器で、何より歌唱力が並外れている。ラストの殺陣の動きもシャープに決まり、これはもう期待するしかないだろう。一方、風間が本公演で演じたジョルジュには101期生の天紫珠李が起用された。天性の上品な貴公子的雰囲気がこの場合まさにぴったり。台詞の滑舌もよく、やや小柄なイメージだが、歌唱の実力には定評があり、今回のような役にめぐまれれば今後が大いに期待できそうだ。
本公演でポルトスを演じている暁は、一樹千尋が演じているマザラン枢機卿に回った。この舞台の台風の目的存在の巨悪で、少年っぽい個性の暁にとってはまさに勉強の場といった役どころ。ひげや衣装で外見からずいぶんイメージを変え、台詞もかなり抑えたトーンで演じ、知らなければ暁とわからないくらい。格段の成長ぶりだったが、それでもずいぶんあっさりしたマザランで、もう少し台詞に抑揚をつけた方がさらにさらにマザランらしくなるのではと思った。この経験を次の舞台に活かしてさらに大きくなってほしい。
娘役ではモンパンシェ公爵夫人(沙央くらま)の海乃がのびのびと演じ、今回が退団公演となった紫乃のマリー・ルイーズ(早乙女わかば)も一度ヒロインを演じているせいか芝居に余裕があり、安定感のある演技で舞台を締めた、ただ銀橋の場面でマイクトラブルがあったのは惜しかった。ヒロイン経験者と言えば美園さくらはスペイン王女マリア・テレサ役。台詞をやや甲高い声にして特徴的な役づくりで臨み、そんなちょっとした工夫が印象的だった。
あと印象的だったのはルイ14世の母アンヌ役(憧花ゆりの)の麗泉里の品格、剣劇一座の座長ビゴー(綾月せり)の蒼瀬侑季とボーフォール公爵(光月るう)を演じた佳城葵の的確な巧さなどが心に残った。若手では振付師のリュリ(佳城)に起用された蘭世恵翔の美形ぶりがひときわ目を引いた。
©宝塚歌劇支局プラス8月2日 薮下哲司記
毎日文化センターに元雪組娘役、桃花ひなさんが退団後初登場!
〇…毎日文化センター(大阪)の「薮さんの宝塚歌劇講座~花の道伝説~」8月23日午後1時半開講の特別ゲストに、7月23日に「幕末太陽伝」で退団したばかりの元雪組娘役スター、桃花ひなさんが登場します。「ブラック・ジャック」のピノコ役が印象的な実力派、桃花さんに宝塚への思いをたっぷりと語ってもらいます。文化センターでは当日限りの特別受講生(3780円税込)を受け付けます。受講希望の方は毎日文化センター☎06(6346)8700までお申し込みください。先着30人で締め切ります。