新人公演プログラムより
留依蒔世、満を持して初主演、宙組「王妃の館」新人公演
宙組の実力派若手スター、留依蒔世初主演となったミュージカル・コメディ「王妃の館」(田淵大輔脚本、演出)新人公演(同担当)が、21日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。
抜群の歌唱力で早くから注目されていた留依だが、昨年、けがのため長期休演して、やや失速した感があったが、前回の「エリザベート」新人公演では見事にフランツ・ヨーゼフ役を演じ切って実力を発揮、今回の初主演につなげた。ただ、今回の作品は、留依のような真面目な正統派には、やや酷な役どころで、ハードルが高かったのではと推察するが、思い切って体当たりしたことが逆に功を奏して、彼女自身も役柄の幅が広がったのではないかと思う。歌も彼女なら本来はもっと歌いあげることもできたと思うが、歌詞を丁寧に軽く歌うことに専念、芝居本来のテーマをうまく引き出すことに成功した。
弱小旅行社が企画したパリのシャトーに宿泊する光ツアーと影ツアーの顛末を描いたドタバタコメディ―だが、テーマは影ツアーの戦中派の元高校教師の格言である「つらいときにこそ笑顔を」という言葉。この格言が登場人物すべての運命を変えていくことになる、笑いながらホロリとさせるハートウォーミングコメディである。薄っぺらな小説ばかりを書いて流行作家として持ち上げられていた主人公の北白川右京が、自分の才能のなさに気付いて、謙虚な心を取り戻していく過程も、留依本来の真っ直ぐな性格が、うまく役にもリンクしていて朝夏とはまた違った右京だった。とはいえ、インスピレーションがわいて体をくねらせる場面で「エクソシスト」とやったところなどは大爆笑で、その辺の振り幅の計算が見事だった。
ヒロインの桜井玲子役の遥羽ららは、「エリザベート」新人公演のエリザベートに続いての二度目の新人公演ヒロインとなり、舞台姿が堂々としてしていて何よりヒロインにふさわしい華やかさがあるのがいい。ただし、本役の実咲凜音の退団公演とあって二度ある銀橋のソロの歌が、声質はいいのだが音程が不安定で、かなり聴きづらかったのが残念だった。東京公演での課題にしてほしい。
真風涼帆が演じたルイ14世の亡霊は研2の鷹翔千空が起用された。前回の「エリザベート」新人公演ではルドルフを演じて存在感を発揮した新星だ。今回はさらに大きな役で、舞台の要となる役だが、一人その豪華な衣装で登場、その堂々たる立ち姿に映えて、研2とは思えない貫録だった。月組新人公演の風間柚乃といい、今回の鷹翔といい、末恐ろしい大器の登場といっていいだろう。
この三人以外で目立つ役としてはまず瑠風輝が演じた不動産王の金沢(本役・愛月ひかる)だが、愛月のばりばりの大阪弁のおかしみが、東京出身の瑠風には無理で、関西出身でないハンデがでてしまったようだ。なんといっても得意の歌がないのだからどうしようもない。カツラという設定も無理がありすぎた。蒼羽りくが演じた女装おかまのクレヨンこと黒岩役は愛海ひかるが演じた。タッパもあってきれいで、変に小細工せずに、ごく普通に演じたのは正解だったと思うがせっかくのおいしい役なのだから、ここはもう少し弾けてほしかった。ラストが思いのほか盛り上がらなかったのは、あっさりしすぎていたからかも。相手役の警官、近藤(澄輝さやと)を演じた優希しおんが、さかんに気持ち悪がっているのだから、それにこたえないと芝居にならない。コメディーとして全体的に大人しい感じになったのはこの辺が原因かも。
一人笑いをとっていたのは右京の秘書役、早見役(純矢ちとせ)を演じた小春乃さよ。コメディー演技としては一番の功労者だった。娘役では星風まどかがルイ14世の愛人ディアナ(伶美うらら)にまわり、星風が演じた元ホステスのミチルは売り出し中の華妃まいあが演じた。華妃は脚線美を強調した短パン姿が印象的で、本役の星風より役柄的には似合っていたかも。
あと印象に残ったのはパリで心中しようとする電気部品工場の経営者夫妻の妻役を演じた天瀬はつひの丁寧な芝居心、シャトーの支配人デュランを演じた朝日奈蒼の品と美形ぶりが気持ちよかった。
コメディーの部分とハートウォーミングな部分とのバランスが難しい作品で、新人公演は後者に重きを置いてわりと真面目に作った感じ。その分、この話の本来のテーマはしっかりと浮かび上がったのではないかと思うが、コメディー部分がやや大人しい印象だった。留依はじめ大健闘しているものの新人公演でのコメディーの難しさを再認識させられた公演でもあった。
©宝塚歌劇支局プラス2月22日記 薮下哲司
早霧せいな×咲妃みゆサヨナラ公演特別鑑賞会のお知らせ
○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「雪組トップコンビ・早霧せいな・咲妃みゆサヨナラ公演特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が5月11日(木)宝塚大劇場で開催されます。午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の雪組公演「幕末太陽伝」「Dramatic“S”!」をS席で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(残数僅少です。定員になり次第締め切ります。お早めにお申し込みください)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。