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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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夢奈瑠音、風間柚乃 鮮烈デビュー!月組公演「グランドホテル」新人公演

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夢奈瑠音、風間柚乃 鮮烈デビュー!月組公演「グランドホテル」新人公演

 

24年ぶりの再演となった月組公演、ザ・ミュージカル「グランドホテル」(岡田敬二、生田大和演出)の新人公演(竹田悠一郎担当)が17日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

本公演は月組の誇る若き新トップ、珠城りょうの大劇場お披露目公演とあって、初演では久世星佳が演じた貴族とは名ばかりの文無しの男爵フェリックスを、大きくふくらませてトップにふさわしい役に作り替え、それが宝塚の舞台に見事にフィットして、素晴らしい舞台に甦った。初演は「エリザベート」初演の3年前、ブロードウェーミュージカルを宝塚風に作り替えることなど恐れ多くて言いだせなかった時代だ。「エリザベート」が大ヒットしたことで、そのあたりの常識を覆し、いまや宝塚風に作り替えることを条件に版権を取得するという宝塚主導型になってきているのだから、時代も変わったものだ。それがいいことか悪いことかは別にして、宝塚の特徴をさらに際立たせる結果になったことだけは確実で、いまの繁栄につながっているのだと思う。

 

それはともかく今回、男爵とグルーシンスカヤをメーンにした宝塚化によって、たとえば、クリンゲラインが予約は取れているのに追い出されようとしたのは身なりではなくユダヤ人差別であることとか、翌年には大恐慌が起きてプライジング社長以下株に投資した人々すべてが無一文になることなどが分かっていて、いずれ起こる世界大戦を前にしたはかなき群像劇というこの作品が持つ時代性が、華やかに脚色したことによって逆に遠くではあるがより明確に浮かび上がったのは見事だった。

 

それは新人公演を見ても明らかだった。研7にして初主演となった夢奈瑠音は、前回の「信長」で明智光秀役を好演、男役としては非常にいい資質をもっており、さらなる活躍が期待されていた矢先の大抜擢。その期待に十分に応えたのは見事だった。登場シーンの真っ白いマント姿で舞台中央に進み、目深にかぶったソフト帽をさっと脱いだ時の目力の強烈なインパクト。まさに星が飛ぶという伝説通り、これぞ宝塚の男役の美学の真髄だろう。貴族の品とちょっぴりだらしない弱さの中に根っからの優しさがのぞく、若さと老獪さが同居するこの難しい役を、やや若さが勝っているように見えたものの本役の珠城りょうからうまく受け継ぎ、自分のものにしていたのはなかなかだった。真っ赤なバラをもって歌うソロの場面からボレロへと続く最大の見せ場も破たんなく立派に見せきったのは大金星だった。

 

相手役のグルーシンスカヤを演じたのは、本公演で秘書フラムシェンを演じている海乃美月。すでに何度かヒロイン役も演じており、初主演の夢奈とこの役をコンビで組むのが必然とも思える絶妙のバランス。本役の愛希れいかをなぞりながら、グルーシンスカヤのエキセントリックな感情を丁寧な演技で見せ、演技派らしい本領を発揮した。

 

しかし、この公演での一番の衝撃は、二番手の役であるオットー(美弥るりか)を演じた風間柚乃だろう。研3という若さで新人公演デビュー、しかもこの難役である。しかし、この見事さはどうだろう。大和悠河を思わせる端正なマスクを眼鏡とぼさぼさの髪型で隠し、そんなに低くないはずの背丈を思いきり小さく見せながら、その確実なダンス力と演技力で鮮烈な印象を残した。歌唱も難曲をクリア、末恐ろしい大器の登場だ。故夏目雅子さんの姪ということなどどこかに飛んでしまうほどの素晴らしさだった。そういえば初演の新人公演のオットーは汐風幸だったなあ、彼女もよかったなあと思いだしてしまった。

 

フラムシェン(海乃/早乙女わかば)は結愛(ゆい)かれん。キュートな雰囲気はとてもよくつかんでいて、メイクも自然で演技もとてもよかったが、このメンバーのなかでは歌が不安定でやや弱い印象。

 

それ以外で特筆したいのはグルーシンスカヤの付き人ラファエラ役(本公演は暁千星と朝美絢)の蓮つかさだった。ボブスタイルの髪型がよく似合い、外見的にも妖しい雰囲気があってそれだけでも高得点だったのだが、歌、芝居がさらにしっかりしていて感服した。

次回は主役の舞台を期待したい。

 

 あと主要な役どころとしてはプライジング社長(華形ひかる)が春海ゆう。ドクター(夏美よう)が颯希有翔。フロント係のエリック(朝美絢・暁千星)が礼華はる。男爵を脅迫する運転手(宇月颯)が輝生かなで。春海、颯希の芝居心のある演技が舞台を支え、礼華はその長身の立ち姿が美しく、制服姿でもひときわ見惚れた。輝生の威圧的で押し出しのある演技もインパクトがあった。本公演でエリックとラファエラを演じた暁千星はドアマンに回り真っ赤なコート姿で印象的。ほかにホテルの掃除担当マダム・ピーピー(夏月都)を演じた桃歌雪が個性的な演技でひときわ目立っていたのも特筆したい。アンサンブルのダンスもよくそろっており、かなりレベルの高い公演だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月19日記 薮下哲司

 


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