©️宝塚歌劇団
踊るフェルゼン、彩風咲奈サヨナラ公演、超豪華雪組公演「ベルサイユのばら」開幕
宝塚史上最大のヒット作「ベルサイユのばら」50年を祝って彩風咲奈を中心とした雪組による宝塚グランドロマン「ベルサイユのばら」フェルゼン編(植田紳爾脚本、演出、谷正純演出)が6日、宝塚大劇場で開幕した。チラシやポスターには表示されていなかった「住友VISAシアター」であったことが初日のあいさつで初めて披露されるなど、事件後遺症のせいで慎重だったスポンサーも徐々に復活してきているようだ。先だっての宙組公演とは対照的に、宝塚王道の至福感あふれんばかりのグランドレビューが繰り広げられ彩風の退団公演を豪華に彩った。
今回の「ベルサイユのばら」は宝塚110周年と初演から50年を記念しての再演で、100周年記念シリーズ以来の公演。前回は月組の龍真咲、明日海りおのオスカルとアンドレ編から始まって雪組の壮一帆のトップ披露、宙組の凰稀かなめ主演によるオスカル編、明日海主演による花組の中日劇場、台湾公演と続き、通算500万人を突破した。厳密にいえば8年ぶりということになるが雪組公演としては11年ぶりとなった。
ピンク一色のカーテン前、荘厳な序曲が流れるなか曲が転調すると「ごらんなさいごらなさい」と小公子、小公女が明るい笑顔で登場。一気に砂糖菓子のような「ベルばら」の世界に。場面変わってベルサイユ宮殿の仮面舞踏会。ロココの豪華な衣装をまとった貴族の男女が勢ぞろい。フェルゼン(彩風)アントワネット(夢白あや)オスカル(朝美絢)が運命の出会いを果たす。「ベルばら」定番のプロローグだがとにかく一人一人の衣裳やカツラが時代考証に沿っていて豪華絢爛。今回は特にバラがテーマになっていてどの場面もバラが咲き乱れてピンク一色!
フェルゼンとアントワネットの逢瀬の場面もバラの精たちが登場して幻想的なバレエシーンが繰り広げられ、舞台中央の巨大なピンクのバラのなかからフェルゼンとアントワネットが登場。これがあのピンクのポスターの場面という趣向だ。彩風と夢白の甘く切ないデュエットダンスが魅力的。
という感じで定番の場面に新たな場面が挿入され、テンポよく話が進んでいくので、これまでの「ベルばら」を見慣れている目にもずいぶんスピーディーで新鮮な雰囲気。
内容的には、一幕はフェルゼンがスウェーデンに帰国するまで、二幕は革命が勃発、アントワネットの救出に向かうことを決意したフェルゼンが牢獄に駆け付けるまでが描かれ、オスカルとアンドレが非業の死を遂げるバスチーユの市街戦の場面は二幕にジェロ―デル(諏訪さき)の回想という形で再現される。この二幕にかなり手が加えられフェルゼン、アントワネットともに新曲があり中でもフェルゼンが歌う「セラビ、アデュー」(𠮷田優子作曲)が佳曲で、退団公演の彩風の心情とも重なって、フィナーレでも効果的に使われた。
これまでの名場面に加えて新たな場面や曲をちりばめた「ベルばら」リニューアルバージョンだが、今回最大のみどころはなんといっても彩風のダンサーとしての資質が全開したフィナーレ。
アントワネットの処刑シーンのあと大階段から黒幕が引き抜かれた後、真っ赤なバラの衣装に身を包んだ50人のロケットが登場。その中央からはなんと真っ赤な大羽を背負った彩風が登場、ロケットと一緒に踊り、そのあと舞台上で着替えしながらパレードまでほぼでずっぱりというまさに大浦みずき以来の”踊るフェルゼン”の体現。
ラインダンスのあとは男役を従えての群舞、続いて娘役陣と入れ替わり、彩風が残って大階段から登場した朝美と夢白とのトリプルダンス、銀橋に残った彩風を雪組メンバーがアカペラで「セラビ、アデュー」で送り出す感動的な一幕も。パレードは夢白のエトワールから始まっていつものように華やかに繰り広げられたが、最後に彩風が登場「セラビ、アデュー」を歌ったあと全員が退出、彩風ひとりになったところで「宝塚わが心の故郷」を歌いだすと、雪組メンバーが衣装のまま客席から登場というサプライズ。オスカルが、アンドレが客席からシャンシャンをもって「愛あればこそ」を大合唱。「ベルばら」50年を祝うとともに彩風のさよならを舞台と客席一体となって惜しんだ。なんとも幸福感たっぷりのエンディングだった。
彩風は長身にロングヘア、ロココ調の衣装がよく似合い、一途に王妃を思う青年貴族フェルゼンを真っすぐな心で演じぬいて好印象。前回の新人公演でも演じているがずいぶん大きく立派になったなあと感慨深いものがあった。新曲「セラビ、アデュー」は後半に何度も登場、新曲とはいえ口ずさめる佳曲がプレゼントされたこともうれしい。
夢白のアントワネットは豪華な衣装に美貌が際立ち、貫禄たっぷりのセリフに芝居心が感じられて、ますます頼もしい存在に。何度もあるソロも聴きごたえ十分だった。
オスカルの朝美は、いまオスカルはこの人しかいないというくらいビジュアル的にはぴったりだったが、セリフの発声が高すぎるような気がしてやや違和感があった。女性であるという前提からの演出の指示だと思うが、もっと普通でいいのでは。アンドレ(縣千)との今宵一夜、橋からバスチーユにかけての名場面はきっちりあって長谷川一夫演出をきっちり踏襲した。アンドレの縣が朝美を相手に内からあふれでる温かい包容力で応えて好演。
ほか主要なところではジェローデルの諏訪さき、ベルナールの華世京、アランの眞ノ宮るい、ロザリーの野々宮ひまり、ジャンヌの音彩唯といったところが気になるところ。フェルゼン編なのでジェローデルもアランも出番は多くないが観客も出演者もカットされている部分を熟知しているので役の大きさが出番をカバーする不思議な感覚があった。なかではジェローデルの諏訪がもうけ役。口跡のよさが舞台を締めた。初日翌日から体調不良で休演しているが大事ないことを祈りたい。もうけ役といえば音彩のジャンヌ役もかなりのウェートを占めていて仮面舞踏会でのソロとともにインパクトがあった。
一方、二幕プロローグの華世ベルナールと野々花ロザリーを中心とした革命のダンスが曲のリズムとともに「1789」を想起させるダイナミックさで新鮮さも感じさせた。
初演から出演しているメルシー伯爵役の汝鳥伶はじめベテラン勢の活躍が重厚さを加えていることはいうまでもなく、プロバンス伯爵役の真那春人が相変わらずの巧さで舞台全体の底上げに大いに力となっていた。
何度も見ている「ベルばら」だが、彩風、夢白、朝美はじめそれぞれの役にふさわしい出演者に恵まれ、新たに命が吹き込まれ、新たな伝説が誕生した50周年記念作だった。
©宝塚歌劇支局プラス7月8日記 薮下哲司