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聖乃あすか、15年ぶり再演の名作を熱演「舞姫」開幕

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©️宝塚歌劇団
 

聖乃あすか、15年ぶり再演の名作を熱演「舞姫」開幕

 

花組の人気男役スター、聖乃あすか、二度目のバウホール公演主演作となったミュージカル「舞姫」(植田景子脚本、演出)が3日から宝塚バウホールで開幕した。森鴎外の同名自伝的小説を舞台化、2007年に花組の愛音羽麗主演で初演され、好評のため当初予定になかった東京公演が急きょ決まった名作の再演。成長著しい聖乃はじめ花組メンバーの好演で今回も感動的な舞台に仕上がった。

 

時は明治18年(1885年)。日本が欧米各国に追いつこうとがむしゃらに近代化を推し進めていた時代。島根の武家の長男に生まれた陸軍のエリート官僚、太田豊太郎(聖乃)は、法律を学ぶため国費留学生に選ばれドイツのベルリンに赴く。ヨーロッパ大陸に足を踏み入れた豊太郎は、西欧の自由と美に心酔、法律以外のあらゆることをどん欲に吸収しようとしたが上司の黒沢(紅羽真希)の反発を買い、仲間からも疎まれる存在に。そんなある日、私費留学生として滞在していた画家・芳次郎(大弥)と知り合い、帰り道に母を亡くして泣きじゃくる少女エリス(美羽愛)と運命的な出会いをする

 

豊太郎とヴィクトリア座の踊り子エリスの交際は、在外日本人の間で中傷の的となり、豊太郎はついに免官処分に。それを苦にした母は自害。国か個人か、追い詰められた豊太郎に救いの手を差し伸べたのは旧友の相沢謙吉(帆純まひろ)だった。

 

明治初期、封建的思想が色濃く残っていた時代の雰囲気が原作の深い読み込みと綿密な時代考証で鮮やかに表現され、同時代のベルリンとの対比も見事。初演にはなかった映像を使ったシンプルですっきりした装置が舞台に奥行きを与えのも効果的だったいずれにしても、規律に縛られたい息詰まる社会しか知らなかった純粋な青年が、国という大きな存在を背負いながら、留学先で自由にふれ、心酔していく様子はよく理解でき、国か個人かで悩む様子は、現代にも通じるところがあり普遍的な感動を呼ぶ。原作の力が大きいが植田氏独特の繊細な演出が最大限に生かされた名作だ。

 

愛音が演じた豊太郎に起用された聖乃は、凛とした立ち姿に品格があり、エリート士官にふさわしい佇まい。国費留学生なのだからもう少し要領よくやれよと突っ込みを入れたくなる場面もあるが、真摯なまでの純真さをよく表現、前回の「PRINCE of ROSES」に比べて格段に充実、情感たっぷりの歌と演技で大きな成長を見せた。長身に純白の軍服姿がことのほかよく似合った。

 

初演で野々すみ花が好演したエリスに扮した美羽は、可憐で一途な少女を繊細に熱演。豊太郎が自分を捨てて帰国するのではないかという不安をぬぐい切れず徐々に精神を病んでいく様子を丁寧に演じた。

 

豊太郎を救う親友、相沢に扮した帆純の優しさあふれる立ち居振る舞いはまさに心が洗われる思いだし、豊太郎が憧れる画家、芳次郎の自分を偽らないストレートな生きざまを的確にとらえた侑輝も好演。細菌学を研究する臆病者の留学生、岩井役の泉まいらのユーモアあふれる演技にも救われた。

 

一樹千尋の天方伯爵、万里柚美のエリスの母、二人の専科の起用も的確で、他の脇役も充実、すみずみまで植田の神経が行き届いた舞台だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス54日記 薮下哲司

 


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