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永久輝せあ、憂いを帯びた復讐の鬼を熱演 花組公演「冬霞の巴里」開幕

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©️宝塚歌劇団

永久輝せあ、憂いを帯びた復讐の鬼を熱演 花組公演「冬霞の巴里」開幕

花組期待のホープ、永久輝せあ主演のFantasmagorie「冬霞の巴里」(指田珠子作、演出)が25日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。古代ギリシャの悲劇作家アイスキュロスによる「オレスティア三部作」を下敷きに、舞台を19世紀末のパリに置き換えて父を殺された兄妹の復讐劇を世紀末の退廃的なムードを盛り込んで怪奇と幻想の世界観でゴシックロマン風に仕上げている。

「オレスティア」といっても馴染みがない人にも王女エレクトラの復讐劇といえば聞いたことがあるはず。映画化もされ数年前に大竹しのぶ主演で舞台も上演されている。母の愛人に父王を殺されたギリシャの王女エレクトラが弟のオレステスとともに母とその愛人に復讐するという物語だ。「冬霞の巴里」は、エレクトラの弟オレステスを主人公に、オレステスの視点から見た復讐劇というスタイルをとっている。

19世紀末のパリの下町。芸術の都とよばれて繁栄を誇る表舞台とは裏腹に貧困がはびこる下町、生気のないまるで死霊のような人々が街頭で踊り狂う中、父の死後しばらくパリから離れていた新聞記者のオクターヴ(永久輝)が姉の歌手アンブル(星空美咲)とともに祖父の葬儀に出席するために帰郷してくるところから物語が始まる。オクターヴがオレステス、アンブルがエレクトラということになる。永久輝はオープニングからロートレックやドガの絵から抜け出したようなトップハットと派手なコートといったスタイルで登場、当時の絵画を再現したかのような舞台装置(木戸真梨乃)や衣装(有村淳)とともに独特の異空間に誘っていく。

オクターヴは子供のころ、母クロエ(紫門ゆりや)と叔父ギョーム(飛龍つかさ)が父オーギュスト(和海しょう)の殺害計画を立ち聞きした経緯があって、姉のアンブルとともに二人に復讐するために帰郷してきたのだった。ドラマはいかにしてそれを実行するかという一点で進展していくが、その間に、姉弟が知らなかった父の実像や、姉弟にかかわる驚きの事実が浮かび上がるなど、さまざまな家族の秘密が明らかになっていく。このあたりはもとのギリシャ悲劇からはかなり脚色されている。

謎解きというほどのことはないにしても復讐を目指す姉弟が知らなかったことが次々に明らかになっていく展開なので詳しくストーリーを書くのは控えるが、恨みはさらに禍根を残し復讐の連鎖となるという教訓がラストに浮かび上がる。今の世界情勢に照らして胸に響く作品となった。

ヒロイン格の星空が姉という設定で、義弟ミッシェル(希波らいと)の婚約者エルミーヌ(愛蘭みこ)がオクターヴに思いを寄せるものの永久輝の明確な相手役はいない公演で、フィナーレもデュエットダンスはなく永久輝のソロのダンスという最近では珍しいケースとなった。

ドラマシティ初主演となった永久輝は、父を盲目的に愛し、一途に母と叔父に復讐を誓うオクターヴを一種凶暴性まで感じさせる鋭い目つきで演じこみ、これまでの甘い二枚目のイメージをかなぐりすてた荒々しい一面をほどよい品の良さをまじえて表現、魅力的な青年像を現出させた。

オクターヴとともに復讐を目指す姉のアンブルに扮した星空は「銀ちゃんの恋」以来の大役だが、堂々たる立ち居振る舞いで舞台空間を支配、姉としての自信に満ちた演技に安定感すら感じさせた。

ストーリーの核となる母クロエの紫門、叔父の飛龍。いずれも演技巧者が起用され、物語に厚みをもたらした。なかでも紫門のクロエ役が抜群。善悪の狭間のミステリー感を品性豊かに表現して魅力的だった。フィナーレで紫門が女役姿で踊る妖艶なダンスもみどころだ。

この舞台での男役二番手格、聖乃あすかはオクターヴたちがパリに帰郷したときに身を寄せる下宿屋で出会う謎の男ヴァランタン。甘い二枚目のイメージを捨てたホラーアニメにでもでてくるような濃いメイクで強烈に残る役どころ。後半で姉弟の復讐にかかわってくるがその形相だけでずいぶん得をしている。

オクターヴの義弟ミッシェルに扮した希波のさわやかな青年像、さらにその婚約者エルミーヌに扮した愛蘭の無垢で可憐な風情が、亡霊たちが彷徨う不可思議な物語に一抹の清涼剤として際立つ。愛蘭の初々しい演技が印象的。

過去の知られざる事実をオクターヴに語る重要なカギを握る人物、ジャコブ爺に扮した専科の一樹千尋、父オーギュストのかつての部下ブノワ役の峰果とわといった脇役も充実。

公演は4月2日まで。4月8日から東京建物ブリリアホールで。ドラマシティ千秋楽の4月2日にはライブ配信がある。

©宝塚歌劇支局プラス3月26日記 薮下哲司

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