新人公演プログラムより転載
©️宝塚歌劇団
聖乃あすか、ため息の出る美しさ!花組公演、MUSICAL「A Fairy Tale」新人公演
花組トップスター、明日海りおのサヨナラ公演、MUSICAL「A Fairy Tale」-青い薔薇の精-(植田景子作、演出)新人公演(熊倉飛鳥担当)が、「ポーの一族」「Messiah」に続いて花組のホープ男役スター、聖乃あすかの主演によって10日、宝塚大劇場で上演された。
本公演を初日に見たときは、明日海の男役人生最後の作品として、ビジュアル的にも役的にも最もふさわしいものの、男役としてのこれまで積み重ねてきたものの見せ場がなく、淡々と進むファンタジーに、肩透かしをくらった感じだったが、再見すると、ようやく、妖精エリュに託した他人のために生きる尊さであるとか、植物学者のハーヴィーに託した自然の尊さを忘れてしまっている現代人への警鐘であるとか、シャーロットに託したピュアな少女のその後の人生の喪失感であるとか、作品のテーマらしきものが見えてきた。実質の主役はシャーロットで、これを一回でしっかりと見せこむのが作者の腕なのだが、そのへんが整理しきれておらずもどかしいのは確かだ。
新人公演は、ほぼ本公演通りに進行、内容に即した丁寧な演出で、独特のファンタジーの世界をわかりやすく現出した。
新人公演はエリュを聖乃あすかが演じ、その立ち姿のビジュアルの美しさは明日海に勝るとも劣らないほど。登場シーンの周囲がパッと明るくなるような圧倒的な存在感は、これからの宝塚を背負うスター候補にふさわしい。ビジュアルが美しい分、内面の表現が難しい役でもあり、そのあたりはさすがに明日海に一日の長があった。特に後半、ヴィッカーズ社の会議に潜り込んで、やりとりを見守る場面は、ややもすれば棒立ちになってしまうので、演出的にも何らかの工夫がほしい。とはいえ、明日海主演の作品の新人公演を三度にわたって主演できた貴重な経験は、今後の大きな糧になるだろう。
柚香光が演じたハーヴィーは帆純まひろが演じ、丁寧な演技とよく伸びる歌唱で、ハーヴィーという人物の誠実さを巧みに表現した。「CASANOVA」での新人公演主演経験が生きていて、大きな舞台で自分の位置を客観的に見るスターにはなくてはならない術も身に着けたようで、これからの活躍が大いに期待できそうだ。
華優希が演じたシャーロットは、本公演で少女時代を演じていた研2の都姫(みやひめ)ここが演じた。少女から初老期まで、女性の一生を点描で表現しないといけない難役で、実質、この舞台の主役ともいうべきヒロイン。都姫は、真っ白なキャンバスに絵の具を流すように素直に演じ、娘役としての可能性を大いに感じさせた。
この3人以外に印象的な役が少ないのがこの作品の欠点でもあるが、そんななかで謎の貴婦人(本役は乙羽映見)を演じた音くり寿が、圧倒的な歌唱力で好演。オズワルド(瀬戸かずや)は一ノ瀬航季、ニック(水美舞斗)は侑季大弥。いずれも役をしっかりと理解した好演だった。
一方、立ち姿の美しさでは聖乃が演じた白い薔薇の精に扮した天城れいんが特筆に値した。あとビジュアルの美しさで、ハーヴィーの助手マシュー(帆純)の希波らいと、オズワルドの秘書ベン(綺城ひか理)を演じた龍季澪がひときわ目立った。花組の下級生には男役も娘役も美形がそろっている印象だ。
©宝塚歌劇支局プラス9月12日記 薮下哲司