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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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極美慎、難役を熱演!星組公演「霧深きエルベのほとり」新人公演

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  新人公演プログラムより

 

 

極美慎、難役を熱演!星組公演「霧深きエルベのほとり」新人公演

 

菊田一夫が宝塚歌劇のために書き下ろした56年前の旧作の再演、星組公演、Once upon a time in Takarazuka「霧深きエルベのほとり」(上田久美子潤色、演出)新人公演(谷貴矢担当)が、22日、宝塚大劇場で行われ、「ベルリン、わが愛」以来二度目の主演となった極美慎が主役のカール、昨年後半から急激に脚光を浴びている娘役ホープ、水乃ゆりのマルギットというフレッシュなコンビの熱演で、昭和の宝塚クラシックが鮮やかに現代に甦った。

 

ドイツの港町ハンブルクを舞台に、船乗りのカールが、自由を求めて家出した貴族の令嬢との出会いと別れをドラマチックに描いた切ないラブストーリーで、本公演は紅ゆずるが、一見、荒くれでちゃらんぽらんに見えながら、実はピュアな心根の持ち主という、彼女の個性にうってつけの役柄に巡り合って、まるで紅のために書かれたような好演を見せている。

 

新人公演のカールを演じた極美は、典型的な貴公子タイプの端正な二枚目なので、男くさいこの役はなかなかの難物。オープニングに銀橋で歌う「鴎の歌」からがちがちで、荒っぽいセリフも似合わないことおびただしく、セリフが身体に馴染んでいない感覚。この先どうなることかと不安になったが、後半、ようやく落ち着きを取り戻し、舞台姿にも余裕がみえ、セリフが自分のものになり、ラストの告白シーンでは、満員の客席を涙の洪水で満たした。前半は課題としても、この役をクリアできた経験は、極美にとっては何事も代えがたいものになったはずだ。次回の挑戦に期待しよう。

 

相手役の水乃ゆりは、本公演でもカールの妹ベティ役に抜擢されて好演しているが、このマルギットはなかなかの出来栄えだった。貴族の令嬢という宝塚の娘役の王道ともいうべき役どころを、凛とした佇まいと、優雅な動き、芯のある台詞で見事に表現。最近の娘役では夢咲ねねをほうふつとさせる大物スターの資質を感じさせた。何より舞台姿に品が感じられるのがいい。課題は歌だが、素質はあるのであとは精進あるのみ。いつの日か大輪の花を咲かせてほしい。

 

フロリアンは、今回、カールとほぼ同格といっていいくらいに書き込まれているが、これは藤里美保が演じた初演オリジナルに戻したのだという。本公演は礼真琴が丁寧に演じているが、新人公演の天華えまも素晴らしかった。すでに新人公演で3度主演経験があり、大劇場の舞台における自分の居場所が分かっているという強みもあって、役を完全に自分のものにしていた。マルギットへの熱い思い、カールへの気遣い、さらにはシュザンヌに対する切ない思い、こんな理解のある男性は実際にはいないだろうが、天華の誠実な演技が、それを体現できていた。

 

ほかに男役では船乗り仲間のリーダー的存在のトビアス(七海ひろき)に扮した天飛華音が、本公演の少年ヨーニー役とは180度変身した色っぽい男役を演じて、芝居心のあるところをうかがわせた。マルギットの父親役を演じたのは遥斗勇帆。実力派らしい貫録で見事に舞台を締めていた。

 

娘役ではカールの元恋人アンゼリカ(音波みのり)に扮した星蘭ひとみの美貌がひときわ輝いた。フロリアンを慕うマルギットの妹シュザンヌ(有沙瞳)の桜庭舞は、雰囲気はよくつかんでいたが台詞が弱い。有沙は、英真なおきが演じたベロニカに回ったが、さすが演技派の名に恥じぬ存在感で見せた。有沙は祭りの場面でカール似の男にも扮して笑いをとっていた。

 

役が少ないので、新人公演も数人しか見せ場がなく、若手には試練の公演ではあるが、その分アンサンブルが重要で、星組若手メンバーのまとまりを感じさせた公演でもあった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月23日記 薮下哲司

 

 


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