©宝塚歌劇団
美弥るりか、青年貴族を繊細に熱演!月組バウ公演「アンナ・カレーニナ」開幕
レフ・トルストイ原作による愛の名作「アンナ・カレーニナ」を舞台化した月組によるミュージカル「Anna Karenina」-アンナ・カレーニナ-(植田景子脚本、演出)が10日から宝塚バウホールで開幕した。
美貌の人妻アンナ・カレーニナが主人公の原作を男役がメーンの宝塚らしく不倫相手のヴィロンスキー伯爵を中心に脚色、2001年に雪組の朝海ひかる主演で初演。2008年にはバウホール30周年を記念したワークショップとして「ホフマン物語」「蒼いくちづけ」「凍てついた明日」「殉情」とともに星組の若手メンバーにより再演された。あまたあるバウ作品でも代表作のひとつ。今回、ヴィロンスキー伯爵に挑む美弥は、2008年版の星組公演で麻尋しゅんがヴィロンスキーを演じたバージョンでカレーニンを演じていて、念願の再挑戦となった。
この作品、何度も映画化、舞台化されていて、舞台版では一路真輝がアンナを演じたフランク・ワイルドホーン作曲のミュージカルが印象に強い、映画版も数々あるが昨年暮れから各地で上映中のロシア映画「アンナ・カレーニナ-ヴロンスキーの物語-」(カレン・シャフナザーロフ監督)がなんと宝塚と同じヴィロンスキー伯爵からの目線の作品で、アンナの死後、日露戦争に出征した伯爵が、東満州の戦地でアンナの息子セルゲイと運命的に巡り合うという展開で、原作の後日談という設定となっている。ファンの方はぜひこの映画もご覧になってほしい。回想に登場する舞踏会のシーンはさすが本物でその絢爛豪華さは目を見張るものがある。
さて今回の宝塚版だが、「ファントム」でパリ・オペラ座を見事に再現した稲生英介氏が今回も装置を一新、これまでの柱を自在に変化させていった装置も捨てがたいのだが、当時のロシア上流階級の屋敷を精密に再現、まずは劇場全体が非常に贅沢な雰囲気となった。ストーリーは原作をほぼ踏襲しているが、暗くなりがちな展開の中で、随所に洗練されたダンスシーン(大石裕香振付)を挿入して、舞台全体のクオリティーを高める効果をあげていた。後半、息子のセリョージャ(蘭世惠翔)と引き離されることがアンナの心に大きな影を落としていくことになるのだが、この舞台では、そのあたりはさらりと流していて、その分、悲劇性が盛り上がらない弱さはあったが、原作のエッセンスはよく伝えていたと思う。
男役として充実期にある美弥のヴィロンスキーは、もはや文句をつけられないくらいに素晴らしかった。若々しく、凛々しく、品格があふれ、アンナが一目で恋に落ちるという風情が身体全体からにじみ出た好演。ヘアスタイルを工夫するなど現代的な解釈もことのほか似合った。地位も名声も捨てて愛に走るヴィロンスキーの猛進ぶりが決して理不尽なものに見えない、見ている観客にも熱いものを感じさせたのは見事だった。
アンナ役の海乃美月も、姿勢のよさが由緒正しい貴族の女性の品格を立派に漂わせ、堂々たるヒロインぶりだった。「エリザベート」同様、タイトルロールなので、どう脚色しても、アンナが主人公に変わりなく、観客がアンナに感情移入することで成立する物語なので、アンナが成否の大きなカギをにぎる作品だが、セリフ回しにやや弱さを感じたものの、海乃の好演で納得のいくドラマになっていた。
カレーニン役は月城かなと。愛する妻のまさかの不倫で、激しく動揺するエリート高官という役どころ。原作ではアンナとはかなり年齢が離れていて、映画などでも年齢を重ねた俳優が演じることが多い。宝塚では、基本的に超二枚目が演じることが多く、これだけは原作とは大きく異なるところ。二枚目でありながら落ち着いた演技で男の凡庸さと苦悩、そしてカレーニンなりのアンナを思う心情を表現しなければいけない難役。うまく演じれば見るものの同情心を一気に鷲づかみできる役でもある。月城は、ひげを蓄えた外見から、そのすべてをクリア、後姿の哀愁さえも醸し出す立派な演技だった。
このドラマは、比較的役が多く、まずヴィロンスキーの婚約者でアンナの妹キティという大役がある。キティに起用されたのは研1のきよら羽龍(はりゅう)。今年の阪急電車の初詣ポスターに起用された期待の娘役だが、新人公演でもまだ役がついていない新星の大抜擢となった。楚々とした佇まい、可憐な雰囲気、芯のある台詞、どこをとってもこれが申し分のない素晴らしい出来栄えで、宝塚には無尽蔵に原石がつぎからつぎへと生まれ出てくるのだなあと感慨を深くした。音楽学校卒業時の成績は5番だったという。キティを慕う田舎貴族の青年コスチャは夢奈瑠音。一途にキティを思う純真な青年を持ち味通りにさわやかに演じ切り好ポイントをあげた。
ヴィロンスキーの同僚でライバルの武官セルブホスコイは英かおと。「THE LAST PARTY」の時もそうだったが、すらりとした上背に軍服がよく似合って適役好演。
ヴィロンスキーとアンナのカップルに微妙な影響を与えるアンナの兄スティーバとキティの姉ドリーの夫婦には光月るうと楓ゆき。専科からはヴィロンスキー伯爵夫人の五峰亜季とトヴェルスコイ公爵夫人の美穂圭子が出演。いずれもベテランらしい味わいでわきを締めた。なかでも美穂の好演が光った。
イタリアの場面に登場するピエロの道化はセリョージャに扮した蘭世が演じているが、こういう明るいシーンにセリョージャの幻影を登場させてアンナの不安定な心象風景を描写するミュージカル的処理も見事だった。蘭世は、セリョージャとしてセリフは少なかったが、イタリアの場面ではダンスソロもあり印象に残った。
公演は24日まで。東京公演がないのが惜しまれる。
©宝塚歌劇支局プラス1月12日記 薮下哲司
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