宙組新トップコンビ、真風涼帆と星風まどかの披露公演、ミュージカル「WEST SIDE STORY」(ジョシュア・ベルガッセ演出、振付、稲葉太地演出補)が、東京国際フォーラムホールCで上演された。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。
「WEST SIDE―」のブロードウェーでの初演は1957年。60年以上も前のこと。1961年の映画版は日本のミュージカル界の草創期に大きな刺激を与え、宝塚では1968年にどこよりも先に日本初演、これは当時大きな話題になった。その後も1998、1999年に再演、今回が4度目の上演となる。これまでは大劇場での上演だったが、初演から50周年の今回は出演者40人による公演。初めて作品に見合う規模の公演となったが、劇団四季や来日公演など本来の男女による公演を何度も見ていると、全員女性という宝塚ならではの華やかさはあるもののジーンズにTシャツだけのリアル感あふれる質素な衣装や、レナード・バーンスタインのテノール用の歌を極端にキーを下げて歌う男役や、ジェローム・ロビンスのオリジナルの振付を女性用にアレンジしたダンスを見ていると、それがうまい下手の問題ではなく、この作品を改めて宝塚で上演する意味はどこにあるのだろうと、ちょっと考えてしまう公演でもあった。
ただ、作品自体は全く古びておらず、トランプ政権になってから、これまで理性で抑えられていたかにみえていたヘイトスピーチが全土で噴き出した感のある現在のアメリカを見ていると、現実は60年前と何ら変わっていないことを改めて実感、それだけでも今の時期の再演は意義があったと言えよう。二幕の「サムウェア」はとりわけインパクトがあり、宝塚が最も得意とする場面でもあり、宝塚でしかできないたとえようもなく美しい幻想シーンが現出されていた。
作品は今更説明するまでもなく「ロミオとジュリエット」を1950年代のニューヨークに移し替え、縄張りをめぐって対立する二つのチンピラグループ、ポーランド系移民のジェット団とプエルトリコ系移民のシャーク団のトニーとマリアが恋をしたことから起こる悲劇を描いたミュージカル。
ロミオにあたるトニーを真風、ジュリエットにあたるマリアを星風という配役。真風の声質がテノールではないので「マリア」や「トウナイト」は苦労のあとがうかがえるが、トニーの役作り自体は、少年から大人に脱皮しようとする微妙な年ごろの雰囲気を巧みに表現、一途な思いがうまく伝わった。星風も恋を夢見る少女のわくわく感とあくまで暴力を拒むやさしい心根をみずみずしく体現、ラストシーンの毅然とした態度に少女から大人への成長を見せつけた。デュエットは二人の声質が違いすぎて、うまくハモってなかったように聞こえたが、立ち姿の美しさは抜群。なかなかいいコンビだ。
ティボルトにあたるベルナルドは宙組初登場の芹香斗亜。これまでにない黒塗りで精悍な役作りで臨み、マリアの兄として男役としての新たな領域を開拓した。オリジナルにはベルナルドにはソロがないがクインテットの場面で少しだけソロをつけるなど宝塚的配慮もあったが、基本はダンスがメーン。体育館での大きく華やかなダンスが印象的。
「WESTSIDE」オリジナルのベルナルドの恋人役アニータには人気男役の和希そらが起用されたが、これが見事にはまった。宝塚版では1998年の樹里咲穂の印象が強烈だったが、和希アニータはそれに優るとも劣らない出来ばえ。「体育館のダンス」「アメリカ」の鮮やかなダンスといい、二幕のマリアとのデュエットと歌にダンスに本領を発揮、「ドラッグストア」の場面のダンスも含めて見せ場も多く、今回の「WESTSIDE」の白眉だった。男役が女役になって男役のパワーが一番生かせる役で、しかもアニータの個性が和希にぴったり。ちょっとおおげさだが和希のアニータが見られただけで今回の「WESTSIDE」の上演の意味があったかもしれない。
ベンヴォ―リオとマキューシオにあたるリフが桜木みなと。「ジェットソング」と「クール」というビッグナンバーのセンターを務める大役。この作品で一番実力が必要な役だが、桜木も大健闘。甘いビジュアルに似合わず、ハードな部分も見せつけ、なかでも「クール」の難度の高いダンスに見ごたえがあった。
シャークスではチノの蒼羽りくが、シャープなダンスとともに好演。マリアが「ピンとこない」というのが不思議なくらいのかっこよさだった。
ジェットではアクションの瑠風輝が「クラプキ巡査」のナンバーでソロがあり、長身がはえ、歌唱も安定感があった。男勝りの少女エニボディーズの夢白あやも初々しい感じがなんともかわいくて印象に残った。
英真なおきのドク、寿つかさのシュランク警部補、クラプキ巡査の松風輝の大人組も達者な演技で脇を締め、若手を支えていた。
©宝塚歌劇支局プラス1月20日記 薮下哲司
元専科・箙かおるさんが毎日文化センター宝塚歌劇講座のゲストに登場!
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