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紅ゆずる絶好調!マサラ・ミュージカル「オーム・シャンティ・オーム」大阪公演開幕
紅ゆずると綺咲愛里のトップ披露公演として、2017年正月に東京で初演されたマサラ・
ミュージカル「オーム・シャンティ・オーム」~恋する輪廻~(小柳奈穂子脚本、演出)大阪公演が22日から梅田芸術劇場メインホールで開幕した。オリジナルの同名インド映画のファラ・ハーン監督も駆けつけ観劇、「メンバー全員をボリウッドに連れて帰りたい」と大興奮だった。
「オーム-」は、人気女優シャンティ(綺咲)に憧れるエキストラ俳優のオーム(紅)が主人公。何とか共演のチャンスをつかもうと必死だったが、ある日、プロデューサー、ムケーシュ(七海ひろき)が、シャンティを殺害するために放った火災の現場に居合わせ、彼女を助けようとして大スター、ラージェシュ(天寿光希)の運転する車にはねられて絶命する。30年後、火災の日に生まれたラージェシュの息子、オーム(紅2役)は大スターになっていたが、なんとそれは死んだオームの生まれ変わりだった。生まれ変わりであることを悟ったオームは、ムケーシュへの復讐を誓うのだが……という輪廻転生のストーリー。インド映画の舞台版らしい華やかな群舞シーンをふんだんに挿入しながら、年月を超えた復讐とラブストーリーが展開する。インド映画ならではのかなり大雑把なストーリーで、さすがの小柳マジックも効かせようがなかったようだ。
紅、綺咲以外の主要メンバーが初演とはがらりと役替わりとなり、全く違った組み合わせでの上演となり、初演とはまた違った印象だが、マサラ・ミュージカルらしい派手さはそのまま、アンコールには客席を巻き込んだおおがかりなダンスシーンが新たに取り入れられ、ここだけは底抜けに楽しい。それまでのうっぷんがすべて霧散する仕掛けだ。
紅は、前半は代々エキストラしかできない庶民的な家庭に育ったオーム、後半は代々主役を演じるスターの家庭に育ったオームを、振り幅大きくオーバーに演じ分け、シリアスな役柄よりもこういう役柄の方が断然似合うこともあって、初演よりもさらにのびのびとした感じ。地元大阪とあってアドリブもふんだんに取り入れ、紅らしさ全開だった。ただべたつくセリフと不安定な歌唱力も全開で、これはなんとか改善してほしい。特に一幕でそれを感じた。
相手役の綺咲も前半は人気女優、後半はオームに憧れる女優志願の少女をいかにもインド人女性という感じの濃いメイクで楽しそうに演じ分けた。後半の女優志願のシャンティが、美稀千種を相手に芝居の稽古をするくだりで全然できないところなど大いに笑わせてくれた。歌唱は紅ともども音程が不安定で、聞いていてフラストレーションがたまったが、元宙組トップ娘役の陽月華を彷彿させる都会的で華やかな舞台姿と芝居の明るさは大きな武器だ。
オームとシャンティの運命を狂わす存在、ムケーシュに扮した七海は、この作品で唯一の濃い悪役。黒いサングラスで格好をつけ、かっこいいことこの上なく登場。初演の礼真琴は、歌の巧さで聴かせたが、七海はひたすら美形で勝負といったところ。
すっかり中堅の風格が身に着いた感のある麻央侑希は、オームの親友で何かとオームの世話を焼くパップー役。初演では瀬央ゆりあが演じた役だ。常にオームのそばにいる相棒的な役どころで、紅との息があっていて、なかなか得な役で印象的だった。ただ、この人もちょっと油断すると台詞がべたつくのでその辺の気配りが必要。
歌の巧い若手も多く出演しているにもかかわらず全体的に歌が弱いという印象はぬぐえなかったが、アンコールの突き抜けた楽しさがすべてを吹き飛ばした舞台だった。
©宝塚歌劇支局プラス7月22日記 薮下哲司