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朝海ひかる、7年ぶりのアン王女!「ローマの休日」大阪から開幕

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朝海ひかる、7年ぶりのアン王女!「ローマの休日」大阪から開幕

 

吉田栄作、朝海ひかる、小倉久寛の三人芝居による「ローマの休日」(マキノノゾミ、鈴木哲也脚本、マキノノゾミ演出)が26日、大阪・シアタードラマシティで再々演の初日を開けた。東京公演が30日から8月6日まで世田谷パブリックシアターなので、今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「ローマの休日」といえばオードリー・ヘプバーンのアン王女、グレゴリー・ペックの記者ジョーの主演、ウィリアム・ワイラー監督による1954年製作の映画史上に残る名作。ローマ滞在中の某国プリンセスが、宿舎の宮殿をこっそり抜けだし、街の中で偶然知り合ったアメリカ人記者と、一日だけの休日を楽しみ、再び公務の待つ宮殿に戻るまでを描いたロマンティック・コメディだ。最近、映画化されたイギリスのエリザベス女王が若い頃、宮殿を抜け出して一日だけの冒険を楽しんだ事件をヒントに当時、赤狩りでハリウッドを追放されていた脚本家ダルトン・トランボが友人名でオリジナルのストーリーを編み出し、世界中で大ヒット、特に日本で格別に愛されている作品だ。

 

日本ではこれまで3度舞台化されており、一回目が大地真央、山口祐一郎主演によるミュージカル版。二度目が今回再演された出演者3人によるストレートプレイ版、3度目が昨年、早霧せいな、咲妃みゆ主演による雪組で上演された宝塚版。それぞれ特徴があり甲乙つけがたいが、今回のストレートプレイ版は、アン王女、記者ジョー、カメラマンのアービングの主演者3人だけに焦点を絞ったのが一番の特徴。しかし、3人に絞ったことで作品のテーマが、より凝縮されて濃密な舞台空間が生み出され、感動的な舞台に仕上がっている。アメリカンプレス、ローマ支局の記者ジョーが、原作映画の脚本家トランボと重ね合わせてハリウッドを赤狩りで追われたシナリオライターという設定にしていることがオリジナルの映画との大きな違いで、これを諾とするか余計なこととするかは意見の分かれるところだが、このことが一日のドラマに大きく陰影を与え、3人の関係性にも深くかかわり、舞台劇として完成度を高めたことは事実で、初演時に菊田一夫演劇賞を受賞、再演が繰り返されているということにもつながっているのは間違いない。

 

 「祈りの壁」の前で、アービングがアン王女に語った、ジョーがなぜハリウッドで仕事が出来なくなったかを説明する場面が印象的で、このことが、ラストシーンで「祈りの壁」で何を祈ったかとジョーに聞かれたアン王女が「大切なお友達が映画の仕事がまたできますように」と祈ったという答えにつながり、その言葉がきっかけで、ジョーはその日のスクープをすべて破棄する決意を固める。そのあたりの心の動きが、映画よりも納得性があったのは事実だった。

 

 記者ジョーを演じた吉田、アン王女の朝海、アービングの小倉と三人とも好演、𠮷田も小倉も、過去の華やかなハリウッド時代の栄光を引きずりながらも現体制への失望感と仕事に対する焦燥感がないまぜになったローマでの自堕落な生活感を見事ににじませていた。そんな2人の前に降りかかったように現れたアン王女に扮した朝海は、外見はオードリーを意識しながらも、朝海本来のチャーミングな美しさと人を寄せ付けない凛とした強さを体現、それに何といっても感心するのは身体から滲み出る品のよさ。これだけはさすが元タカラジェンヌのなせるわざだ。

 

 3人芝居の制約で、1幕はアン王女がジョーのアパートに転がり込むところから始まり舞台はアパートだけ、2幕は翌日昼、街のカフェテラスから始まってローマ市街、船上パーティーが映像を駆使して展開、そして翌朝の記者会見の場面へと続く。有名な場面はほぼ網羅されているが「真実の口」の場面と「祈りの壁」の場面がやはりハイライト。この2つに焦点を当てた脚本がクライマックスで見事に効いてくる。映画と決定的に違うのは、王女がジョーを記者であることに気付き、別れ際にアパートで記者会見の予行演習をするくだりがあることだ。これが、翌朝の実際の会見の場面で、さらなる感動を呼ぶ仕掛けとなっているのも見事な脚色だった。

 

 オリジナルのモノクロの映画を意識して、舞台も全体をモノトーンに抑え、黒とグレーと白で統一した美術もシックで、変に安っぽい色を使われて、目が散るよりは数段効果があった。舞台オリジナルの渡辺俊幸によるメロディアスな音楽も、映画のテーマ曲よりも印象的だった。

 

 人間同士の信頼感についての誰もが知る話から新たな感動を呼び覚ました作品であることが改めて証明された舞台で、何度も再演される理由も理解できた。今回は5年ぶりの3演目だが、今後もことあるごとに再演を続けてほしい名作舞台だ。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月27日記 薮下哲司

 


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