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礼真琴が東北の英雄に挑戦!「ATERUI 阿弖流為」開幕
星組の人気スター、礼真琴主演の「ATERUI阿弖流為」(大野拓史脚本、演出)が、15日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティから開幕した。今回はこの公演の初日の模様とOSK日本歌劇団の神戸公演「ハイダウェイ」(荻田浩一作、演出)を併せてお伝えしよう。
高橋克彦原作「火怨 北の耀星アテルイ」を原作に大野氏が脚本化、大野氏にとって雪組公演「前田慶次」と並ぶ渾身作となった。阿弖流為は、ここ10年来、映画、舞台、ドラマで再三取り上げられているが、舞台では市川染五郎、堤真一が共演した劇団☆新感線版「阿弖流為」(中島かずき作、いのうえひでのり演出)が素晴らしかった。のちに染五郎、勘九郎で歌舞伎版として再演されている。今回の宝塚版も内容的にはほぼ同じだが、九頭竜ちあきによる映像と氷谷信雄による照明が宝塚の舞台とは思えない斬新さで、阿弖流為伝説を直球勝負でまともに描いた大野演出に、ぴったり溶け合ってなかなか見ごたえがあった。もちろん阿弖流為を演じた礼の役への真摯な取り組みがさらなる相乗効果をあげていることは疑いがない。
阿弖流為(あてるい)は、奈良時代、朝廷から蝦夷地といわれた東北地方岩手県・胆沢(いざわ)の長の息子として生まれ、蝦夷の地と民を守るため他の蝦夷の長たちをまとめて朝廷側と戦った蝦夷の若き指導者。舞台は、阿弖流為(礼)ら若き蝦夷の若者を前に、朝廷に屈服したことで蝦夷の長たちから裏切り者扱いを受けていた伊治(これはる)城主、鮮(あざ)麻呂(壱城あずさ)が、朝廷の使者、紀広純(輝咲玲央)暗殺計画を打ち明ける場面から始まる。阿弖流為は、鮮麻呂の蝦夷を思う心意気に深く感動、自らも蝦夷の地と民を敵である朝廷から守りぬく決意を固める。そこで、まずは敵を知ろうと奈良の都に潜入することを決める。一方、そのころ朝廷では、都随一の武人といわれる坂上(さかのうえ)田村麻呂(瀬央ゆりあ)を、蝦夷征伐に任じていた。
阿弖流為と田村麻呂の運命的な出会いと敵同士であるという葛藤を軸に、大和朝廷の日本統一の犠牲になった先住民族の悲しい運命を描き出していく。大野氏はかつて真飛聖と柚希礼音がまだ若手の頃、遣唐使を拒否して流罪になった小野皇(たかむら)の悲劇を描いた「花のいそぎ」という佳作を発表したことがあったが、今回も、阿弖流為に託した熱い気持ちがほとばしり、礼のさわやかな熱演とあいまって非常に好感のもてる作品に仕上がっている。
礼は、なめらかな歌唱力、身体能力最高のシャープなダンスはいうまでもなく、芝居力も「THE SCARLET PIMPARNEL」のショーブランで飛躍的に向上、いまや乗りに乗っている上り調子の勢いが魅力のスター。そんな礼が、いま一番似合ったのではないかと思う役がこの阿弖流為だった。仲間のために蝦夷を守ろうと思う信念のストレートな気持ちが、礼の真っ白な心からストレートに伝わった。これ以上犠牲者を出すまいと自ら降伏、結局、処刑されてしまう結末は史実通り。朝廷の官僚が、蝦夷を権力の道具にしか考えていないのは、現在の日本のどこかと重ね合わせて見ることもでき、フィナーレの礼の歌声が重く切ない。
朝廷のなかで唯一、蝦夷の人々を理解する人物として描かれる坂上田村麻呂の瀬央も、地に足の着いたしっかりした演技で好演。阿弖流為と信頼関係を築きながら、蝦夷征伐の隊長に任命され、戦うことなく投降してきた阿弖流為の助命嘆願をするのだが、聞き入れられることがなく、その理不尽さを歌うソロが聴かせた。
有沙瞳が演じる蝦夷の女性、佳奈は、原作とは異なった設定ではあるが、阿弖流為に大きな影響を与える役でこの舞台でのヒロイン格。弓矢の技術にたけ、戦闘シーンでの派手な立ち回りもある活動的な役どころを、生き生きと演じ、新境地を見せてくれた。
あと、鮮麻呂の壱城はじめ大きな役は多いが、阿弖流為に仕える腹心の部下、飛良手(ひらて)を演じた天華えま、佳奈の兄で最後まで阿弖流為と生死を共にした蝦夷の長、母礼(もれ)を演じた綾凰華の二人が特に印象に残った。二人とも綺麗な格好をするわけではないのだが際だった存在感があった。
映像を駆使、特に導入部分で登場人物一人ひとりの名前をきっちり字幕で説明したのは親切で、名前の読みが難しい時代の話だけに分かりやすかった。花組公演「邪馬台国の風」にもこういう工夫があればよかったかも。
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一方、OSK日本歌劇団が、神戸三宮にオープンしたミニシアター、シアター・エートーの杮落し公演として上演した「ハイダウェイ」(荻田浩一作、演出)が13日に開幕した。若手ホープ、華月奏ら出演者8人、短期間の公演だったが、これがなかなか素敵なステージだった。娘役の城月れい、華月に続く男役の翼和希らがそれぞれ美形で歌、ダンスの実力もあり、閉ざされた空間でのアンソロジーの連鎖というテーマで、伊賀裕子、原田薫という第一線の振付家が要求する密室のダンスにも果敢に挑戦、見事にこなしていた。100周年に向けたOSKの新しい展開にも要注目だ。
©宝塚歌劇支局プラス7月17日記 薮下哲司